第1章
いのちの闇
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「尖ったくちばしと鋭い爪、それから大きな翼をもつモノ。あれは人間じゃなかった。そのおかげで僕は変なことまで思い出してしまったけどね」
独り言のように言って、笑う。
「きっと父竜の復活が近いんだ。だから勾玉を守らなくっちゃならないんだよ。彼らに勾玉を奪われて封印を解かれてしまったら、もう誰もそれを封じることはできないんだ。僕達は巫女の子孫ではあっても、もうその力はとうの昔に薄れてしまっているから」
現実味がまるでなかった。
すべてが作り事めいていて、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがなかった。
しかし浅葱は真剣で、そんな奴に優は正気に戻れとは言えなかった。
だからせめて、関係ないことだからと、背を向ける。
その優に、浅葱は静かに言った。
「僕のこと、本気で心配してくれたのって、まさるちゃんだけだったね。ありがとう」
突然思いがけないことを言われて、優は慌ててしまった。
が、それを悟られるのも嫌だから、一番年が近くて、よく一緒に遊んでやって仲だからと、そっけなく言った。
そんな優を少しだけ笑いながら、浅葱は見ていた。
「また心配かけるといけないから、まさるちゃんだけには言って行こうと思って。僕、探しに行こうと思うんだ。日本中に散らばっているこの珠玉を」
浅葱はポンと背中でリュックを踊らせた。その中に件(くだん)の勾玉が入っているのだろうか。
「集めることの方が危険かもしれないけど、他の勾玉を持つ者が僕と同じ血を引いているなら、何かしらの解決策も見い出せるかもしれない」
振り向いてみた浅葱は、優の知らない人間に見えた。
あの、優の後ろをおどおどしながらついて来ていた浅葱はもういなくなってしまったのだと、直感した。
どうしてなのかは優には分からないことなのだろう。
* * *