第1章
いのちの闇
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「優さんなら信じてくれると思ったけど」
「ばっかばかしい」
「…そう」
浅葱は小さくそうつぶやくと、胸を押さえた。傷口がまだ痛むのだろうか。
ふと、心配している自分に気付いて、あわてて優はそっぽを向く。その優に浅葱は意外なことを口走った。
「僕のこれね、本当は自分でやったんじゃないんだよ」
何の事かと見返す優に、浅葱は小さく笑った。
「今は信じなくてもいいから、聞いておいてね」
浅葱はそれから、優におとぎ話のようなことを語った。
「昔ね、竜と人間が出会った時代があったんだよ。竜はどこから来たのか、人の形を取って一人の娘と恋をしたんだ。竜の子がいくつも生まれて、だけど最後に娘は人間の形をした子を産んでしまった。竜は怒って娘を殺した。そのとき娘がこぼした涙が珠玉になった。それが竜の勾玉と呼ばれるものなんだよ。竜は娘を殺してしまった後悔と、おさまらない怒りとで、里の人々を殺していった。それを、最後に生まれた人の子が、父竜をその珠玉で封じたんだ。それから後、勾玉はその子の子孫へと受け継がれていった。いつか竜が復活することを恐れて、五つに分けて、日本中に祀(まつ)った。そのうちの一つが、杉浦家にあったものなんだよ」
浅葱はそこで一息つくように、口をつぐんだ。
近くに自動販売機を見付けて駆け寄ると、オレンジジュースを買っていた。
丁寧に優の分まで同じものを買ってよこしてくれた。いらないとそっぽを向くと、あっさりとそれを自分の鞄にしまいこんだ。
「だから杉浦の血はね、竜の血を引く巫女のものなんだ。勾玉を守る使命があるんだよ」
冗談とも本気ともつかないような顔をして浅葱は笑った。
それから、ふと真剣な表情を作る。
「だけど優さんって、もっと何か違うものを感じるんだ。おじいさんも僕のことは認めてくれていたけど、優さんにはそれ以上のものを見ていたんじゃないのかな」
「…何のことだ?」
優は浅葱の言葉の意味を測りかねて、眉を寄せてみせる。そんな優に、浅葱はまた笑って見せた。
「きっと、今に分かるよ」
それだけ言うと浅葱はどんよりとした空を見上げた。夜には雨になりそうだと、今朝の天気予報で言っていたのを思い出す。
「僕をねらったヤツはね、本当は勾玉が目的だったんだ」
「えっ?」
浅葱はわざとのんびりとした口調で、そう言った。