第1章
いのちの闇
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「こっの、ばっかやろーっ!」
浅葱が目を覚ますと同時に、優はそう怒鳴っていた。
「このくそガキが、何を考えてやがんだっ」
「これ、優」
母の注意も、耳には入らなかった。
死んで何になるのか知らないが、祖父がいなくなったからと言って自分まで後を追おうなんて甘ったれるにも程がある。
優はそう言って、浅葱の瞳を睨みつけた。すると意外にも浅葱は目を逸らすことなく、優を見返して来る。
だのに、浅葱は何も言わない。だんだん我慢ならなくなる。
優は横になっている浅葱の胸倉をつかむと、手を振り上げた。
「優、やめなさいっ」
邪魔が入った。母が優の振り上げた手をつかみ、ひねり上げる。
「いってーっ」
「ここをどこだと思っているの、この乱暴ものっ」
「どっちが乱暴ものなんだよっ」
「浅葱ちゃんは怪我人なのよ。少しは労ってやりなさい。そんなだからあんたは彼女の一人もできないのよ」
大きなお世話だ!
優はすっかりふて腐れると、浅葱を放した。
「あーあ、そんなに死にたいヤツ助けるんじゃなかった」
「優っ」
母の厳しい声に、優はぺろりと舌を出すとそのまま病室を出て行った。
浅葱は自殺をはかったらしかった。
そんな簡単な理由で、人間は死ねるものなのだろうか。
同情する点はあるが、だからと言って一体幾つの子どもだと言うのだ。15歳と言えば就業可能年齢だ。世の中には一人で生きている者だっている。それが簡単なことだとは言わないが、死ぬことに比べたらよっぽどましだと優は思っている。
「浅葱のばっかやろーっ」
つまらなかった。
どうせ自分には分からないことだと、諦めるしかなかった。
* * *