第1章
いのちの闇
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優は手近にあった石をつかむと、窓ガラス目がけて投げ付けた。
パリンと景気良く硝子の割れる音が響く。そこから手をいれて鍵を開け、浅葱の部屋へ上がった。
部屋の中は真っ暗だった。
そして、慣れない妙な匂いかした。
優は手探りで蛍光灯の紐を探した。電灯をつけると、一瞬目の奥が痛くなる。あわてて目を閉じ、そして次に開いたとき赤いものが目の中一杯に飛び込んできた。
白い襖に障子、壁そして畳、そこにとくとくと流れる赤黒いもの――血だった。
「浅葱……」
優は足元にうずくまる小さなものを見下ろした。血の海の真ん中で横たわるもの。
優の中で何かが弾けたような気がした。今までずっと塞がれていたものがどっと吹き上げてきた。
自分の中に眠る見たくもなかったものが、優を襲った。それは黒い、月のない夜闇に似ていた。
「どうしたんだ、優っ」
父の声で優は我に返った。そして浅葱を助け起こす。
まだ頬は暖かかった。
「父さん、車出してくれ」
優は浅葱の傷口を押さえながら、惚けた顔をして部屋の中を眺めていた父に怒鳴った。