第1章
いのちの闇
-3-
2/5
昼間の時間は短かった。
仕上げ法事も済ませ、ばたばたと人の出入りを見送りながら一日が終わってしまった。
優はあと一日試験が残っていたため、その日も帰らなければならなかった。試験といっても前日の一夜漬けができない以上、受けてもどうせ同じことだ。後日追試のお達しがあるだろうと覚悟を決めていた。
試験といえば浅葱は受験生の筈だ。公立の入試まであと幾日もないだろうに、葬儀だ、四十九日だなどしていたら勉強どころではないだろうにと、同じ受験生の姉貴が言っていた。
優がそれとなく聞くと、浅葱は笑顔を向けてきた。
「心配してくれてありがとう」
そう言ったきり口をつぐんだ。
どうせ自分なんかとは違ってよい子の浅葱のことだ、直前に慌てなくても普段の実力だけで十分なんだろう。そう思い、優はそれ以上聞かなかった。
夜、優達が自宅へ帰ろうとする頃には、薄情にも親戚連中は一人として残っていなかった。
帰って行く叔父達に優が何か言ってやろうかと思っていると、浅葱が側へ寄って来て言った。
「優さんも、明日試験が残っているんじゃないの?」
つまり、みんな帰ってしまえと言いたいわけか。少しは同情しかけた自分がバカに思えて来た。
考えてみればそうだった。思い出してみればそうなのだ。何もかも自分で取り込んでしまい、自分で取り仕切ってしまって、誰にも渡さなかったのは浅葱自身ではないか。
それに後見人になろうという父や叔父達の言葉をはねかえして、一人この大きな家へ残ると言い張ったのも、浅葱の方だった。
優は別れのあいさつもそこそこに、車に乗り込んだ。姉達と母は先に帰ってしまって、父と二人のドライブになってしまい多少面白くはなかったが、気分が悪いことに変わりはなかったので、我慢することにした。
車が走り出して、ふと優は振り返ってみた。
月のない夜道に立って、優達を見送る浅葱の姿が、小さく見えた。
* * *