第1章
いのちの闇
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 昼間の時間は短かった。

 仕上げ法事も済ませ、ばたばたと人の出入りを見送りながら一日が終わってしまった。

 優はあと一日試験が残っていたため、その日も帰らなければならなかった。試験といっても前日の一夜漬けができない以上、受けてもどうせ同じことだ。後日追試のお達しがあるだろうと覚悟を決めていた。

 試験といえば浅葱は受験生の筈だ。公立の入試まであと幾日もないだろうに、葬儀だ、四十九日だなどしていたら勉強どころではないだろうにと、同じ受験生の姉貴が言っていた。

 優がそれとなく聞くと、浅葱は笑顔を向けてきた。

「心配してくれてありがとう」

 そう言ったきり口をつぐんだ。

 どうせ自分なんかとは違ってよい子の浅葱のことだ、直前に慌てなくても普段の実力だけで十分なんだろう。そう思い、優はそれ以上聞かなかった。

 夜、優達が自宅へ帰ろうとする頃には、薄情にも親戚連中は一人として残っていなかった。

 帰って行く叔父達に優が何か言ってやろうかと思っていると、浅葱が側へ寄って来て言った。

「優さんも、明日試験が残っているんじゃないの?」

 つまり、みんな帰ってしまえと言いたいわけか。少しは同情しかけた自分がバカに思えて来た。

 考えてみればそうだった。思い出してみればそうなのだ。何もかも自分で取り込んでしまい、自分で取り仕切ってしまって、誰にも渡さなかったのは浅葱自身ではないか。

 それに後見人になろうという父や叔父達の言葉をはねかえして、一人この大きな家へ残ると言い張ったのも、浅葱の方だった。

 優は別れのあいさつもそこそこに、車に乗り込んだ。姉達と母は先に帰ってしまって、父と二人のドライブになってしまい多少面白くはなかったが、気分が悪いことに変わりはなかったので、我慢することにした。

 車が走り出して、ふと優は振り返ってみた。

 月のない夜道に立って、優達を見送る浅葱の姿が、小さく見えた。


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