第1章
いのちの闇
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優は浅葱に連れられて、浅葱の部屋までやって来た。相変わらずきちんと整頓された、優の部屋とは比べようもない所だった。
浅葱は優を座らせてから、机の引き出しの奥にしまっていた先日の勾玉を取り出した。
勾玉は丁度よい大きさの箱の中、柔らかい布にくるまってしまってあった。白い布に埋もれたそれは赤く不気味な色に輝いていた。
そしてその横に大事そうに置いてあった巻物を、優に差し出す。
「これは優さんに返します」
優は浅葱を見る。真剣な表情の浅葱に、優はそっけなく言い返した。
「いらねぇよ」
が、首を左右に振ってみせる浅葱。
いつにも増して頼りなげに見えたのは、看病疲れのせいだろう。目の下にできた隈が、そう告げていた。
「僕が持っていても……これは大切なものだから優さんが守っていて」
こんなものもらったって優はうれしくも何ともないし、どうせすぐに捨ててしまうだろうから、大切なものだと言うのなら浅葱が自分で持っていればいいと優は突き返した。
それでもと言う浅葱に、優は声を高くする。
「いらないって言っているだろ。第一、俺はこの巻物に限らず、財産だってこのでっかい家だっていらないんだ。まったく、遺言だか何だか知らねぇけど迷惑してんだよっ」
あの父も親戚連中も、何もかも気に食わない。見なくてもいいものまで見てしまう。聞きたくもないおべっかも聞かされる。それくらいなら民法どおり、子供達で均等に財産分けすればいいんだ。
「でもこれは杉浦家の宝だから……守らなくちゃいけないんだ」
「だったらお前が持っていればいいだろう。俺には関係ねーよ」
「まさるちゃん……」
「その言い方やめろって言っただろう」
浅葱の傷ついた顔。気分が沈んで行く思いがした。
優は立ち上がると、さっさとその部屋を出た。障子を閉めるとき振り返って見た浅葱の姿は、はかなげにかすんで見えた。