第1章
いのちの闇
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「おお、優か。こっちへ来なさい」

 親族の集まっていたのは、祖父の祭壇のある次の間だった。

 普段は見知らない遠くの親戚――ま、優もそのうちの一人に違いないだろうが――に紹介されて、父の隣に無理やり座らされた。

 初めは何のことか分からず、みんながちやほやしてくれていたため気分よく座っていたが、十分と経たないうちに優はすっかり嫌になってしまった。

 どうやらこの親類達は、優が死んだ祖父からこの家の相続権を半分与えられたことを知っているらしかった。ま、親戚なのだから当然かも知れないが。

「優くんは体格がいいね。何かスポーツでもしているのかね」
「ええ、まあ」

 優は集まった連中をぐるりと見回す。

 どうやら父親の弟妹達らしいが、全員そろいもそろって自分の父親が死んでしまったことがわかっていないようだった。この家の客ではないのだから、座布団の上に座って世間話なんてしていないで、仏の番でもしていろと思った。

 優はこの親戚連中に見切りをつけて、その座を立った。


   * * *


「優さん、ちょっと」

 通夜の客も一通り終わり、お呪師さんも帰り、故人を囲んでの思い出話にも飽きた頃、浅葱が優に声をかけてきた。

 祖父がなくなる前のここ数日、浅葱はろくに休むことなく看病に明け暮れていたという。

 その話を笑いながら語る父達にも腹を立てたが、黙ってそれを聞いたまま何一つ言い返そうとはしないこの従弟にも、優は結構苛立ちを覚えていた。

 言いたければ言ってやればいい。死んだのはお前達の実の父親だろう。お愛想にでも悲しい顔を見せてやれと。

 だから浅葱に声をかけられたときも思わず嫌な顔をした。

 浅葱はそれに気付いて一瞬ためらったふうを見せたが、周囲にちらりと目を向けてから、もう一度言った。

「今日のうちに、まさるさんに渡しておきたいものがあって」

 仕方なく、優は浅葱に言われるまま通夜の席を外れた。

 今日の浅葱の言葉は、どこかそらぞらしい印象を与えていた。その理由はすぐに分かった。優の名前に「さん」づけをしていたからだった。優が言ったはずなのに、「ちゃん」づけで呼ばれるよりもずっと気分が悪かった。


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