第1章
いのちの闇
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 祖父がついに他界したとの連絡が入ったのは、それから半月とたたない、その冬最後の雪が降った朝のことだった。

 父や母、それに四人の姉達は連絡があると、すぐさま支度を整えて飛び出して行ってしまった。

 優はというと、学年末の試験週間の真っ最中でそれどころではなかった。とはいうものの、孫として通夜に顔を出さないわけにはいかず、二時限の試験が終わると、その足で父の渡してくれたタクシーチケットを使い、高千穂へ向かった。

 実のところ祖父のことより、浅葱の方が気になっていた。

 浅葱にとって祖父は、言ってみれば唯一の家族だった。それがいなくなってしまったのだから、あの気弱なヤツがどれほどふさぎこんでいるのか心配になっていたのだった。

 心配してやる義理はないが、数いる従兄弟達の中では一番年も近いし、よく遊んでやったクチだから、行ってやるのも自分の義務のような気がしていた。

 この間のことは、この時には、すっかり忘れていた。

 屋敷へ着くと、そこは人が溢れていた。さすがは年の功だけあって知人は多いらしかった。

 玄関を入るなり一番に優の目に映ったのは、一番悲しんでいなけばならないはずの浅葱が、通夜に訪れる客の接待を一人でしている姿だった。

「まさる……さん、来てくれたの?」

 疲れた顔に笑顔を浮かべて見せる浅葱は、この前会ったときよりも痩せて青白くなっていた。

 優は浅葱に同情心が起こった。こんな雑用を浅葱一人に任せて大人達は一体何をしているのかと。

 優は靴を脱ぎ捨てると、奥の間へ上がって行った。


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