第1章
いのちの闇
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優はもともと財産なんて欲しくないし、こんなゴミのようなものもらってってうれしくもなんともなかった。
その夜祖父の家へ泊まり込んで、優は巻物と勾玉を前に顔をしかめていた。
「まさるちゃん、入っていい?」
襖のむこうで声がした。浅葱だ。
優は黙っていた。
「眠っているの、まさるちゃん?」
はっきり言ってこいつも鬱陶しかった。
容姿とか言葉使いとか本人の責任でもなく、個人の自由であることについてとやかく言いたくはなかったが、力いっぱい気に入らなかった。
加えてこの呼び方だ。「まさるちゃん」だと?
確かに自分の名前は杉浦優と言うが、同年代の男にそう呼ばれると背中に悪寒が走る。
優が返事をしないものだから、礼儀正しいお坊ちゃんは部屋の中に入ってこられないでいた。襖のむこうでおろおろしている浅葱の様子が目に浮かぶ。
このまま知らん顔をしていれば、あきらめて自分の部屋へ帰っただろうが、この二つの骨董品を与えられたのが自分と浅葱の二人ということでもあったし、明日には学校があるから優は帰らなければならなかった。その前に、このゴミを浅葱に押し付けてしまわなければならないと考えた優は、仕方なく部屋へ入るように言った。
ややあって静かに襖が開き、不安そうな表情をした浅葱が姿を現した。
「何か用か?」
優はぶっきらぼうにそう聞いた。すると浅葱はか細い声で答える。
「あのね、まさるちゃんに頼みがあって」
――やめてくれ、その喋り方。
優は叫びたいのをぐっとこらえ、じろりと浅葱に目をやった。
どこをどう見たらこれが男に見えると言うのか。歩き方まであのナントカという台所用品だった。
優の目付きが余程怖かったのだろう、浅葱は言葉に詰まってしまった。
「何だよ、はっきり言えよ」
別に脅しているわけではないが、機嫌が悪いものだからどうしても口調が荒くなってしまった。その声に浅葱は脅えてしまっているようだった。部屋の隅に突っ立ったままで、優を見ている姿は哀れだった。
「あの、あのね、その勾玉、ちょっとだけ見せてくれない?」
見せるも何も、もともとこの家のものだから浅葱のものだと思うし、二人にくれたものだから欲しいって言うなら、のし紙つけてご進呈するつもりだ。
優はそう言ってから、おもむろにその勾玉をつかむと、浅葱に向けて軽く放り投げてやった。