第1章
いのちの闇
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 優はどれだけ惚けた顔をしていたのだろうか。

 何故なら、一年数カ月ぶりに会ったその従弟の君はすっかり男っぽくなっていると思いきや、まるで女の子だった。

 確かに昔から優の後ろをおどおどしながらついてくるような子ではあったが、浅葱もこの春には高校生のはずだ。それがどう間違えたらこんなふうに成長できると言うのか。

 色は白くて、目はくるくるして、首は細くて。

「まさるちゃん、いらっしゃい」

 そう言って笑いかけた浅葱は、こいつ本当に自分の血縁かと疑いたくなってしまうほど可愛かった。

 もとい!情けなかった。

「お前達二人に渡しておきたいものがあってな」

 じいさんはそう言いながら、枕元に置いてあった箱を引き寄せた。

 それは何の飾りもない、木でできた古い箱だった。そしてその中から出てきたものは、いかにも古めかしい匂いのする巻物と、不細工な首飾りだった。

「これはな、我が家に代々伝わる家宝の巻物と竜の勾玉だ」
「竜の勾玉?」
「昔から我が杉浦家は、竜神様に守られてきた。若いお前達にとってはそんな話も作り話としか思えないだろうが、大嵐で村ごと水没したときでも我が一族からは被害者の一人も出なかったこともある。今現在の財を与えてくれたのも、言わば竜神様のお導きがあればこそ」

 優は前言撤回したくなった。

 ――じいさん、とっくにイッちまってる…。

 そんなことを考えている優を祖父はすかさず見抜いたらしい。

「信じなくともよいがな。ただこの二品は我が家に代々受け継がれてきたものだ。竜神様を祀る司祭の家系の一つとしてな。これらをお前達にゆだねる」

 祖父はそう言ってその古びた箱ごと、優と浅葱の座る前へ巻物と勾玉を置いた。


   * * *



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