■ 遠い約束 ■

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 記憶の回復はあっと言う間だった。

 次の日にはセレムのあの可愛げのない元気な姿がキャンプにあった。凜として気高い目をして。

 あの、心もとなくて寂しげな笑顔と引き換えにして。

 いつの間にか暗黙の了解ができていて、記憶を失っていた間のことは誰も口にしなかった。当然、セレムの耳に入ることもなかった。

「会ってあげないの?」

 マキアスが気を使ってフェザンの元を訪れたのはその日の午後だった。

「フェザンの気持ちは分かるけど、セレムが気にしているよ。もともと記憶をなくしちゃう直前に喧嘩をしてたんでしょ? セレムはその時のことまでしか知らないんだし」

 敢えてセレムを避けているフェザンに、不自然なままでは勘ぐられると付け足しながら。

「うっせーな。あのヤローの話なんか聞きたくねぇよっ」

「フェザンッ」

「とっとと帰れ。お前の顔も当分見たくねぇんだ」

 ひどい見幕で、マキアスはフェザンのテントを追い出される。

 ああは言うものの、本当は気になって仕方のないことくらいは気づいていた。本当に会いたくないのなら昼間でも平気で姿をくらますだろうから。

 それでももうしばらくそっとしておいた方がいいのだろうと思った。

 諦めてマキアスは広場へでも行こうかと足を向けた。

「あ、マキアス」

 その背にかけられる声。振り返るとそこにセレムが立っていた。

「何だ、元気ないみたいだな」

 年上ぶった口調が、まるで別人のように思わせる。

「どこかへ行く途中?」

 魔道書を抱えた姿に問いかける。

「ん、太子のところ」

 少し頬を染めて見えるのは、本人は無自覚なのだろう。

 多分、レイヴァンとの仲も以前の通りに戻っているのだろう。

「かわいそうに…」

 呟くマキアスに、何のことかとセレムは首を傾げる。

「ううん。何でもない。それより、太子のところの用事が終わったら、教えて欲しい呪文があるんだ。いい?」

「ああ、いいよ」

 そう答えて、小さく笑う。それは見とれる程に奇麗に見えた。

 この人がライバルなら、勝ち目はないかもと思いながら、しかしマキアスは首を振る。

 自分の思いも必ず届く筈だからと。

 ふと、セレムが立ち止まった。ちらりと見やるのはフェザンのテントだった。

「どうかしたの?」

 一瞬、何かの予感がして聞いてみたが、返ってきたのはいつもと同じ取り澄ましたような顔だった。

「いや、何でもないよ。マキアス、先に呪文を教えてあげるよ」

「うんっ」

 じゃあ行こうと言って先を歩くセレムに、マキアスは慌ててついていく。

 すべてが元どおりなのだ。これで良かったのだとマキアスは自分に言い聞かせた。










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