■ 遠い約束 ■

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「十分楽しかったよ…フェザンに出会えて良かった」

 そう言って馬を降りるセレム。レイヴァンの元へ歩み出そうとするセレムを追いかけてフェザンも慌てて馬を降りた。

 すぐに引き留めて、抱き締める。

「ダメだ、行かせねぇ」

「フェザン…」

「何があっても俺が守る。だから俺の側にいろ」

 抱き締める腕に力を込める。

「…いてくれよ…」

 呟くように言うフェザンの腕に顔を埋めて、セレムは静かに目を閉じる。それから、ゆっくりとした口調でセレムは囁いた。

「好きだよ、フェザン」

 セレムは握り締めた拳を解きかけて、もう一度握り直す。

「ごめんね」

 呟いて、フェザンの鳩尾にその拳を繰り入れた。いきなりのことに痛みよりも驚きが先に立つ。

「ど…して…?」

 ゆっくり崩れ落ちるフェザン。苦しそうに胸を押さえてセレムを見上げる。

「もっと早くにこうすれば良かったんだ」

 そうすればこんなにつらくはならなかったのに。こんなにもフェザンを好きになる前に。

 そう言葉にはせず、セレムはフェザンを残してレイヴァンの方へ歩き始める。待てと手を伸ばすが、届かなかった。

 痛みをこらえて立ち上がろうとするのを、レイヴァンの供の者達に押さえ付けられる。

「セレム…!」

 フェザンの声に一度立ち止まり、振り返りかけるが、そのまままた前へ進む。ゆっくりとした歩調に、ひどく長い時間のように思えた。

「放しやがれっ!」

 フェザンは押さえ付けようとする手を振りほどき、立ち上がろうとするが、鳩尾の痛みに膝が立たず、崩れ落ち、すぐに地に押さえ付けられる。

「ちくしょーっ」

 手が届かない悔しさに、握り締めた拳で地面を叩く。

「行くなっ、セレム…」

 声は届いているのに、セレムは振り返らなかった。

 レイヴァンの前に立ち、軽く頭を下げる。

「ごめん…なさい、太子」

 そんなセレムとフェザンを交互に見やり、レイヴァンは僅かに切れ長の目を細めてから、セレムの手を取る。白馬の背に引き上げられるセレム。

「セレムッ!」

 守ると誓ったのに、守れなかった。自分への悔しい思い。そして、それを決意したセレムを思って。

「くっそー…」

 何度も何度も、拳を地面に叩きつける。赤く血がにじむ手をさらに痛めつけ、傷つける。手の痛みより心の奥の痛みの方が数段つらかった。

 自分の無力さが、無能さが許せなかった。










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