■ 遠い約束 ■
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森を抜けた先に、小さな村があった。薄明るくなり始めた里はひどく静かで、蹄の音がやけに響いた。
が、そんなことを気にとめている場合ではなかった。向かった先くらいすぐに知られる。それまでにできるだけ遠くへ逃げなければならない。
フェザンは再び馬を走らせた。セレムは黙ってフェザンの後ろに乗っていた。
随分走って息も切れる頃、フェザンはようやく馬を止めた。
「少し休むか」
言った途端にセレムが落馬しそうになった。倒れたのはつい昨日のことなのだ。分かってはいたが、それでもなるべく遠くへ行きたかった。
「大丈夫か?」
フェザンは何とかセレムを馬から降ろし、草の上に座らせる。
「悪かったな、無理させて」
セレムはうつむいたままで首を振る。答えるのもつらそうだった。そろそろ逃げるよりも隠れる場所を探した方がいいのかもしれないと思った。
「そろそろ行くぞ」
あまり時間はないと感じていた。この辺りで隠れる場所を探すつもりでいたが、フェザンはセレムにそう声をかけてもう一度立ち上がらせる。
「…フェザン、僕…」
「ぐずぐずしているとまたあいつらが来る。せめて次の町へ出よう」
フェザンの言葉にセレムはうなずいた。
セレムには、もう終局が見えていたのかも知れない。
町を見つけて街道へ足を踏み込んだ途端に、二人の目の前に人影が現れた。
「もうお遊びはおしまいだ。キャンプへ戻るぞ」
そこに、レイヴァンが文字通り立ち塞がっていた。
舌打ちして引き返そうとした後方にも馬に乗った追っ手の姿があった。いの間にか挟まれていたのだった。
「帰ったらどうなるんだよ。セレムの記憶を戻して、こいつを消しちまうんだろ」
「何を言っている」
レイヴァンはフェザンの言葉に軽く眉をしかめる。
「渡さねぇ、こいつは誰にも」
フェザンはチラリと背後のセレムを見やる。
「たとえ世界中を敵に回したって、こいつは誰にも渡さねぇ!」
隙を見て飛び出して行こうとする供の兵を制して、レイヴァンは一歩踏み出す。
「力づくで捕らえることもできるんだぞ。世界中どころか俺一人にも勝てないんじゃないのか?」
挑発的に笑って、レイヴァンはあきらめを促す。事実にムッとしながら、それでもフェザンはたずなを握り締めたまま逃げる機会を伺う。レイヴァン相手にそれができるとは思わなかったが。
「フェザン」
名を呼ばれて振り向いたフェザンにセレムは笑顔を向ける。
「ありがとう」
もう諦めかけているその言葉に、フェザンは繰り返す。
「心配するな。俺が必ず守ってやるから」
しかしセレムは首を振った。