■ 遠い約束 ■

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 森は深い闇に閉ざされていた。

 フェザンは自分の馬を馬場から連れだし、鞍をつける。

 なるべく遠くへ行こうと思った。軍も、レイヴァンにも手の届かないところへ。

「行くぜ」

 後ろにセレムを乗せて、フェザンはたずなを握り締める。

 向かう先がどこかなんて分からなかった。恐らくは平和な所ではあり得ない。特に今のこの大陸では。しかし自由と、繋いだ手の主と引き換えにできる物なんてありはしなかった。

 ゆっくりと歩き出す馬。セレムがフェザンの背にしがみつくのが感じられた。

「待ってよっ!」

 その時、背後で聞き慣れた声がした。振り返ると幾人かの軍人達とマキアス。サラの姿も見えた。まるで待ち構えていたかのような出現にフェザンは眉をしかめる。

 マキアスが唇を噛み締めているのが目に入り、セレムが戸惑ったように馬を降りようとするのを引き止める。

「こんな夜中にどこへ行こうって言うの?」

 マキアスの問いかけに、フェザンは鼻で笑って返す。

「今更何言ってやがんだ。俺にとっちゃ、んな役目なんかクソ食らえだ」

「フェザン、落ち着いて」

 サラが割って入るのをフェザンは睨みで返す。

「慌ててんのはてめぇらの方だろ。こいつに何を吹き込みやがった?」

「事実を告げたまでだ。セレムも了解している。そうだろう?」

 そう言ったのは、人込みをかき分けて出てきたレイヴァンだった。

 何も言えずにうつむくセレムを背にかばうようにフェザンは馬の首を巡らす。

「セレムを行かせるわけにはいかない。セレムはこの軍に必要な存在だ。行きたいなら、自分一人で行くがいい」

「うっせーよ。こいつはなっ!!」

「いいよ、フェザン。もう…」

 怒鳴るフェザンの背後でセレムが声をかける。

「元のセレムに帰ってきてもらった方がいいんだ。きっと、フェザンにとっても」

「ばか言うなっ!」

 叫んでフェザンはたずなをふるう。そして抵抗する間もないセレムと共に夜の森へと馬を走らせた。

「あ…待って」

 制止するサラの目の前、二人の乗った馬はあっと言う間に森の闇に飲み込まれていった。

「フェザン…」

 呆然としてマキアスは力無くその場にひざまづく。その横でレイヴァンの冷静な声が飛ぶ。

「馬を用意しろ。すぐに後を追う。見失うな」

「はっ」

 返事をして即行動する兵士達。

「マキアス…」

 サラが気落ちするマキアスの肩に手を置いて声をかける。

「二人を追い詰めるつもりじゃなかったのに…僕は…」

「大丈夫よ。ほら、泣かないで。二人を追いましょう」

 ポンポンと背を軽く叩かれてマキアスは顔を上げる。あふれそうになる涙を服の袖で拭って強く返事を返す。

「はい」

 逃げることが解決には結び付かない。しかし、何が正しいかなんて誰にも分からない。自分のしていることは多分、半分は正しくても半分は間違っている。そうマキアスは感じていた。

 せめて今は、二人に無事に帰ってきて欲しいと思った。

 大好きなフェザンとセレムに。










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