■ 遠い約束 ■
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嫌な予感が過ぎる。
「これ以上、待っても無駄だと言うことだ」
ヒースが横から答える。
「元のセレムに戻ってもらう」
ヒースの言葉を受けて、レイヴァンが続ける。
「敵陣も近い。セレムの力は不可欠だ」
「不可欠って…今のあいつだってそのうちに…」
「敗北してからでは遅い」
厳しいレイヴァンの声が飛ぶ。これがセレムの恋人だなんて思えなかった。その相手を睨むフェザンをなだめるようにヒースは続ける。
「大丈夫だ。記憶をなくしたセレムも、記憶の戻ったセレムも同じセレムに代わりはない」
分かっていないのだと、フェザンは拳を握り締める。レイヴァンもヒースも分かっていない。あいつがいつも震えていたことを、苦しんでいたことを、誰も何も分かっていないのだと。
「じゃあ、今のあいつはどうなるんだ? 死んじまうのか?」
「何を…死んだりなんかしませんよ」
サラの穏やかな口調もフェザンには何の言い訳にもならなかった。
「そんなこと、させねぇからなっ!」
怒鳴って、フェザンはそのまま部屋を飛び出した。ヒースが止めようにも、あっと言う間に姿は消えていた。
「ガキだな」
レイヴァンがフェザンの後ろ姿を見送って、怒った様子もなく呟く言葉に、ヒースは呆れたように言う。
「お前も同じだろう。セレムを取り返したいんだ」
本当はレイヴァンもヒースも気づいていた。セレムの記憶が戻らない原因について。それは今の自分を消したくない理由ができてしまったから。大切な人ができてしまったからだと。