■ 遠い約束 ■
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「ごめん、分かってるんだけど…でも…」
笑顔が消えて行くのがはっきり見えた。うつむいて、そのままセレムは駆け出す。
「待てよっ」
脇を擦り抜けようとするセレムの腕を、フェザンはとっさに捕まえる。
「放してっ…僕は…っ!」
目が合うと、すぐに逸らす。その目尻に光るものが見えた。
「お前…」
「怖いんだよ、僕。魔道を使えば使う程、今の僕じゃなくなるみたいで。何か別のものになってしまいそうで。僕、今のままでいたいんだ。ずっと、このままで」
言ってフェザンの首に抱きついてきた。
「フェザンのことが好きなんだ。記憶なんて取り戻したくない。今のままでいたいよ」
「セレム…」
「でも、今の僕はいつか消えるんだよね。本物の魔道士セレムの記憶が戻ったら」
だったら、今の自分は何なのか。誰なのか。どこへ行くのか。
「フェザンの中にある僕もいつか…」
いつか消えてしまうのだろう。時とともに。
「…ばっかやろーっ」
低く言って、セレムに口づける。
「お前はここにいるじゃねぇかよ。今、ここに。消えることなんてねぇよ。誰にもお前を消させねぇ」
「フェザ…」
深く口づけて、抱き締める。
失いたくない存在だと、フェザンは初めて気が付いた。