■ 遠い約束 ■
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柔らかく笑うセレムに、フェザンは自分の上着を脱いで頭から被せる。
「着てろよ。お前、そんな格好で…」
薄衣一枚ではとても平気そうには見えなかった。セレムはそんなフェザンをしばらく見つめてから、上着を肩に掛け直して草の上に腰を降ろす。
「不安…なんだよ…」
ポツリとセレムは呟くように言った。
「何だか魔道もうまく扱えないし。みんなそんな僕に気を使ってくれてるんだけど、応えられなくて。多分、前の僕は何でも上手にそつなくこなしていて、こんなこと悩みもしなかったんだろうね」
確かにそんなイメージはあった。こと戦いにかけては失敗談など耳にしたこともなかった。
「ね、フェザン、僕は何?」
「えっ?」
フェザンを真っすぐに見上げてくる目。
「今ここにいる僕は何者? いつも聞かされる、以前の僕はみんなの中にすごく強く残っていて、みんなそれを僕に期待しているのが分かるんだ。だけど今の僕は――違うのに…僕は違うのにって言いたいのに、そんなことも言えないんだ。だって僕は自分が本当に何なのか知らないから…だから…」
周囲から寄せられる重圧と、不安な思いで眠れなかったのだろう。両腕を抱き締めてうつむく姿はひどく小さな存在に見えた。
「セレム…」
自然に身体が動いた。
柔らかく抱き締めると、思った以上にセレムの身体は冷たくなっていた。
「俺が側にいてやるよ」
だからもう怖がらなくていい。不安にならなくていい。
フェザンはセレムの耳元で囁く。
「俺が守ってやるよ」
「フェザン…」
抱き締めるフェザンの腕に顔をうずめて、セレムは小さく頷く。
この迷い子のような存在が、フェザンにはひどくいとおしく思えた。