■ 遠い約束 ■

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「くっそーっ」

 眠れずに苛々した思い。月明かりの眩しさが余計に眠気を阻害する。

 フェザンは服を着替えて屋敷を飛び出した。

 どうせ眠れないなら馬を飛ばそうかとも思ってみた。しかし余りにも遅すぎる時間なので馬も休みたいだろう。仕方がないので散歩でもして気を紛らせることにしようと考えた。

 夜の森は涼やかな虫の声が聞こえた。青い月が眩しいくらいに足元を照らす。この時間まで眠れないとなると明日は久しぶりに稽古をサボることになるだろう。

 迎えに行かなければセレムは心配するだろうか。突然のことでは、心配して様子を見に来るかもしれない。そうなるとサボるのも考え物だった。

 そんなことをつらつらと考えながら歩いていて、気づけばフェザンは先日セレムと来た湖まで来ていた。そこに、人の気配が感じられた。

 こんな時間に一体何者だろうか。首を傾げながらそっと近づいてみる。

 夜の湖。昼間のきらめく清涼さと打って変わって、深い静寂に包まれたそこはまるで別空間のように思えた。

 ふとフェザンは湖のほとりに立つ人影に気づく。

「セレム…」

 こんな時間に何をしているのだろうか。しかも夜着姿のままだった。

 ぼんやりとどこを見つめているのか、所在無げに立つ姿はどこかはかなく見えた。

 ゆっくり近づいて行くと、その気配に気づいてセレムは振り返る。少し驚いた表情を浮かべて。

「フェザン? どうして…?」

 意識ははっきりしているのかと、多少、ほっとする。答える代わりに聞き返す。

「何やってんだ、こんな時間に」

「ちょっと眠れなくて」



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