■ 遠い約束 ■
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セレムをテントへ送って帰る道すがら、マキアスがポツリと言った。
「フェザン、セレムには優しいんだね」
自分でも思ってみなかったことを言われて、フェザンは不審そうにマキアスを見やる。
「いつもは喧嘩ばかりして、あまり口も利きたがらなかったのに」
「別に理由なんてねぇよ」
鬱陶しそうにそう答えるとマキアスはムッとした表情を向けて、フェザンの前方へ回り込む。
「分かってるの? 親しくしてもあのセレムは…すぐにいなくなっちゃうんだよ。前のことを思い出したら逆に、記憶をなくしていた時のことはみんな忘れちゃうんだって。サラが言ってた」
それは最初に聞いた。分かっているのだ、そんなことは。
「だから何だって?」
睨むフェザンに、マキアスは静かに返す。
「つらいだけだよ」
「お前…」
言っているマキアスの方がつらそうに見えた。
「どんなに好きになっても、いつかはいなくなるんだ。今のセレムをどれだけ思ってもだめだよ。だから僕は早く元のセレムに帰って来て欲しい。フェザンも近づき過ぎない方がいいよ」
どれだけ同じ時を重ねても、忘れてしまうのだ。失っている記憶の代わりにどれだけ多くの思い出を作ろうとも、元の記憶が戻ればセレムの中にはもう何も残っていないのだ。
「フェザン、あれはセレムじゃないよ、間違えないで」
これはマキアスの精一杯の忠告だと気づいた。しかし、フェザンはそれを受け入れる気はなかった。
「間違えてるのはお前の方だろ。お前は自分のことを思い出せないセレムに苛立って、突き放しているだけじゃないか。忘れてしまう事だからって、放っておいた方がいいって? 知らん顔しろって言うのか?」
「違うよ、僕が言いたいのは…」
多分、フェザンのことを思って、そして、セレムの記憶が早く戻ることを願っての言葉。十分、分かっている。
「それに、その方が都合がいい」
フェザンは自嘲気味に笑む。
「馬鹿馬鹿しいって、笑われるからよ。アイツに」
甲斐甲斐しくセレムの面倒を見ているなんて、自分でもお笑いだった。これが元のセレムにだったら、とてもやってられない。
だから、理由をつける振りをする。何も知らない可哀想な奴だから面倒をみているだけなのだと。