■ 遠い約束 ■
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「記憶喪失…?」
サラの説明にフェザンはうさん臭そうな目を向ける。
「ええ、一時的なものとは思いますが。多分、頭を打ったときのショックと長時間眠っていたことによる記憶障害でしょう」
サラはそう言って、自分を見上げてくるフェザンとマキアスに心配はないと言い足した。
「じゃあ僕のことも分からないの?」
「ええ、マキアスのことも他の誰のことも、自分自身のことも何も思い出せないんですよ」
サラの言葉にマキアスは酷くつらそうな顔を向けた。
「で、どうなるんだよ?」
「レイヴァンやヒースともお話をした結果、しばらく様子を見ることになりました」
無理やり記憶を取り戻す方法もないわけではなかった。しかし、多少の外傷を伴っていることも鑑み、このまま、できれば自然に記憶が戻るのを待つことが最善であると結論づけたのだった。
「大事な魔道士サマだしってことか?」
フェザンは吐き捨てるように言う。
「ですからあなた達も、セレムにあまり刺激は与えないようにしてくださいね」
そっとしておくのが一番の早道と言うのだった。
肩を落として見せるマキアスに、サラはいつもの通り接すればいいのだと付け加えた。
テントの前まで来て、マキアスはふと立ち止まった。
「どうした?」
聞かれてマキアスは小さく首を振る。
「ううん、何でもない」
そう言って、テントをくぐる。
夜具の上に上体を起こしてぼんやりしていたセレムは、人の気配に振り返る。そして入ってくるフェザンとマキアスの二人に怪訝そうな顔を向けた。
「えっと…」
知らない者を見るような目にマキアスが小さく息を飲む。が、すぐに気を取り直して名乗る。
「マキアスだよ。こっちはフェザン」
「ああ、そうだったね」
少しだけ笑みを見せるセレムにマキアスはつらそうな顔をする。それでもサラの言葉に従い、いつも通りに振る舞おうとしてみせる。
「気分、どう?」
「明日には外へ出ていいって」
「そうなんだ、よかったね」
「ん…」
発する言葉の端々に、向ける笑顔に、セレムではないものを感じないではいられなかった。
小生意気で横柄な口ぶりは影を潜め、自信なさそうな笑みを向けるセレム。
「本当に何にも覚えていないんだね」
マキアスの言葉に戸惑いの色を浮かべるセレム。