■ じらされて ■

2/8




 先に使っていいと言われたシャワーを浴びて室外へ出たとき、悪夢は始まった。

 シャワー室の前に潜んでいたレイヴァンが、突然襲いかかってきたのだった。

「な、何をする?」

 驚いて一発顔を殴ろうとしたが、簡単にかわされてしまった。

 レイヴァンはまだしっとり濡れた身体のセレムを、軽々と抱き抱えるようにしてベッドに押し倒した。

「レイヴァン太子…!」

 焦ってセレムは暴れる。が、両腕を取られ、上からのしかかられ、あっと言う間に身動きが取れなくなってしまった。

「何だ、この俺とふたりっきりの休暇が、本当にただの休暇だと思っていたのか?」

 見下ろしてくるレイヴァンの冷たく青い瞳がセレムを捕らえる。

 ドキドキするような眼差しに射竦められて、セレムは一瞬、ボーッとなる。が、次の言葉に我に返る。

「ここからは剣の稽古だ。俺の大剣を存分に味合わせてやるから、覚悟しておけよ」

 言ってレイヴァンは自分のものをちらりと見やる。

「ふざけるなっ」

 しかし、抵抗しようにも力でかなう相手でもなく、セレムは両腕をまとめられ、あっと言う間にベッドの支柱にくくりつけられてしまった。

 まだシャワーを浴びたばかりの、腰にタオルを巻いただけの格好をレイヴァンの眼前にさらけ出し、ひどく恥ずかしい思いがした。

「俺はこれからシャワーを浴びてくる。その後じっくり可愛がってやるからな」

「いるもんかっ!!」

 何と否定しようとも、レイヴァンは聞き入れる気はないようだった。

 そのままシャワー室に入ろうとして、ふと、立ち止まる。

「そうだ、忘れるところだった」

 そう呟いてとって返し、自分の荷物の中をかきまわす。その中に、何かを見い出してにんまり笑う横顔がセレムの目に映った。

 また、良からぬことに違いない。

「これを塗ってやる」

 手のひらに乗る程の小瓶は、魔道で使う薬品入れら似ていた。

「何だか分かるか?」

 レイヴァンの物言いに、セレムは思わず身を引く。

「昨日、ヒースがくれたものだ。南海の島国で密かに手にいれたそうだ」

 言ってレイヴァンは瓶の蓋を外す。途端に広がる嫌な匂い。

 レイヴァンは楽しそうにその中に指を入れ、透明な薬を取り出してセレムに見せる。

 レイヴァンは瓶をサイドテーブルに置くと、セレムの足元に馬乗りになる。

「良く効くそうだぞ」

 そう呟きながら、セレムの腰に巻いているタオルをめくった。

「や…やだ…」


<< 目次 >>