Q:統一交渉団は,何を求めているのでしょうか?
A:これまで紹介してきたことは,入所歴なき人々の被害実態のほんの一部にすぎません。
入所歴なき人々は,今も差別偏見の恐怖に脅え,また社会内医療体制の不備による不安を抱えながら,社会の片隅で,自らを社会から「隔離」しつつ,「死」と隣り合わせの生活を送っています。このような状況は,隔離政策によって人生を歪められ,あるいは隔離政策がなければ本来享受しうるはずの人生を奪われた,という意味で,在園者や退所者と全く同様の被害を受けているといわなければなりません。
入所歴なき人々が,人間らしく,平穏な安定した生活を送るためには,
@ 国の責任にもとづき経済的支援を行なうこと(退所者給与金と同種の制度の創設)
A 安心して受診できる医療機関の設置と医療費自己負担分の減免等により,社会内での治療が適切かつ容易に受けられるような医療体制をつくること
が必要不可欠です。
Q:これまでの交渉経過(国の姿勢)はどのようなものだったのでしょうか?
A:
1 国の約束違反と協議会の決裂
国は,2002年1月30日,熊本地方裁判所の法廷において,入所歴なき人々に対する社会生活支援金等の恒久対策について,引き続き協議すると約束しました。
ところが国(厚労省)は,この約束に反して,入所歴なき人々の問題は「賠償一時金で解決済みである」として,協議のテーブルにつくことすら拒み続けました。
2003年1月20日,ハンセン病問題対策協議会において,統一交渉団は,「せめて副大臣は入所歴なき人々と会って,被害の実情を聞くべきだ」と訴えましたが,座長である木村義雄副大臣は,入所歴なき人々と会って被害の実情を聞くことさえも拒否し,その結果,協議会は決裂しました。
2 作業部会の設置と実態調査
この協議会の決裂は,世論や統一交渉団の怒りにつながり,国会でも,厚労省や木村副大臣の背信的態度に対する厳しい追及がなされました。
そして,世論の盛り上がりと,ねばり強い運動の結果,2003年4月,厚労省は,入所歴なき人々の恒久対策を協議するための作業部会を設置することを表明し,ようやく協議のテーブルに着きました。
作業部会では,厚労省は,さらに「施策の必要性と内容を検討するため」に,入所歴なき人々に対する生活実態調査の実施の方針を提案しました。
私たち統一交渉団は,入所歴なき人々の恒久対策の早期実現のために,この提案に応じ,6月末までに,1ヶ月という極めて短い期間で,全国91名の対象者のうち84名(92%)の調査を完了しました。
3 実態調査の結果
この調査においては,
@ 就学中に発症した人の半数以上が,偏見差別や病気発覚のおそれから退学し,または進学を断念したこと
A 偏見差別や病気発覚の恐怖によって仕事に影響が出たと回答した人は,6割を超え,中でも雇用されていた人のうち,8割を超える人が偏見差別や病気発覚のおそれから解雇あるいは自主退職していたこと
B 発症してから確定診断日(適切な治療が受けられるようになった日)までに,平均で65.3ヶ月(約5年半)も要しており,社会内で適切な治療を受ける機会がなく病気や後遺症を重篤化させたこと
C 表面的には就学や就労に影響がなかった場合でも,偏見差別を恐れて周囲に病気を隠し続けた結果,自制的な経済活動や社会活動を余儀なくされてきたこと
が,明らかとなりました。
また,実態調査の結果では,入所歴なき人々の平均年間所得が約190万円しかなく,年収200万円以下の方が約7割を占めていることも明らかとなりました。この数字は,各種統計資料(賃金センサス,総務庁家計調査等)における平均的な所得水準を大きく下回るもので,その差額は月額にして,12〜26万円にもなるものです。
この調査結果は,まさしく国の隔離政策が創設・助長した偏見差別によって,入所歴なき人々たちが,社会生活及び経済活動に著しい制限を受け,その結果,厳しい生活を余儀なくされていることを示すものです。
国は,療養所入所歴のある退所者に対しては,隔離政策により経済的基盤を奪ったことを認め,その原状回復責任にもとづき,2002年4月,社会生活を支援するための給与金(年金)制度を実施しています。入所歴なき人々も,隔離政策による偏見差別によって,経済的基盤を奪われた点については,退所者と同様であることは,上記実態調査結果からも明らかとなりました。
国は直ちに,入所歴なき人々に対しても,法的責任にもとづいて,社会生活を支援するための給与金(年金)制度を実現すべきなのです。
4 未だ実現を渋る厚労省
ところが厚労省は,この調査結果が示す切実な経済実態を前にしても,施策実現につき極めて消極的な姿勢を示し続けており,いまだ予算要求の筋道すら付けようとしていない状況です。
Q:私たちは,今,何をしなければならないのでしょうか?
A:統一交渉団は,厚労省に対し,入所歴なき人々に対する月額最低12万円の給与金(年金)制度を来年度に実現すること,そして,この実現のために早期に本年度のハンセン病問題対策協議会の開催をすることを求めています。
実は,国が背信的・消極的な姿勢をとり続け,給与金制度の実現を渋っている間に,前記のCさんはじめ何名もの入所歴なき人々が体調を崩し,施策実現を心待ちにしながら,あとどれだけ生きられるか分からないという状況におかれています。
国が,これ以上,被害者を苦しめ続けることは断固として許してはなりません。
国に,その法的責任に基づき,入所歴なき人々に対しても早急に,かつ十分な恒久対策を実施させるためには,熊本地裁勝訴判決や控訴断念のときのような,皆さんの絶大なるご支援とご協力が必要です。
まずは,皆さんお一人お一人が,首相官邸,坂口力厚労大臣,木村義雄厚労副大臣に対し,「入所歴なき人々(非入所者)の給与金制度を来年度実現せよ」との要請書を,メールあるいはファックスで送ることから始めて下さい。メールアドレス,ファックス番号は下記のとおりです。ハンセン病問題の早期解決は,市民一人一人の要求であることを国に分からせる必要があります。
今一度,ハンセン病問題の全面解決に向けて,大きな運動を展開していただくよう,お願いいたします。
【首相官邸】〒100-0014 東京都千代田区永田町2−3−1 小泉純一郎 殿
http://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html
【坂口力厚労大臣】
〒100-8981 東京都千代田区永田町2−2−1 衆議院第1議員会館617号室
(FAX)03−3508−3617
【木村義雄厚労副大臣】
〒100-8982 東京都千代田区永田町2−1−2 衆議院第2議員会館329号室
(FAX)03−3502−5235
【厚生労働省】〒100-8916 東京都千代田区霞が関1−2−2
http://www.mhlw.go.jp/getmail/getmail.html