控訴理由書

第六 おわりに

 一 以上述べたように、本件変更計画及びこれに関する手続の違法性については明らかであり、本件変更計画は取り消されるべきである。この点で原判決の誤りは明白である。

 

 二 ところで、本件訴訟のそもそもの発端はまさに水の問題であり、既得水利権によって農業を営んでいた控訴人らを含む三条資格者に対し、被控訴人が「水代はタダ」などということで強引に本件変更計画を押しつけたところに存する。

   すなわち、控訴人らは原審における一九九九年一〇月二二日付準備書面において次のように主張した。

   「変更計画における『用排水事業』あるいは『農地造成事業』に関して、『水源を川辺川ダムに求める』ということが述べられている。しかし、それでは、現存している用水施設の評価、取扱、さらにそれらにかかわる水利権はどうなるのか。地域の農業者は国営に一括されることによって、それら全てを『召し上げられる』のではないかという不安を訴えている」(右準備書面二四)。

   これに対し、被控訴人は第一回準備書面で次のように答弁している。

   「『川辺川本川掛かり』の既得水利権については、既存の堰その他の水利施設が本件事業によって川辺川ダムに合口後に新設される取水地点において、その必要水量につき新たに水利権を取得することになる。農水大臣は、事業完成後、本件事業の受益者で組織する土地改良区に対し、その取水口の管理操作を委託する予定である。したがって、既得水利権者は、農水大臣が新たに取得することとなる水利権について、実質的には既得水利権による場合と同じく取水できることになる(右準備書面一〇)」。

   すなわち、右答弁は。@既得水利権については既存の堰その他の水利施設が本件事業によって川辺川ダムに合口されるため、A被控訴人が既得水利権に代わり、合口後に新設される取水地点において、その必要水量につき新たな水利権を取得することになる、としている。

 

  三 本件変更計画と既得水利権

  1 しかしながら、@本件変更計画では川辺川ダムから取水した用水を新設の本管を通じ、ファームポンドにおとしていくものであり、被控訴人の主張は全く根拠のない主張であり、A本件変更計画では被控訴人が新たな水利権を獲得するとしても、既得水利権が消滅するかどうかについて一切触れていないことは明らかである。例えば、既得水利権たる川村飛行場水路(いわゆる六角水路)の取水量は毎秒一・三九立米を相良村土地改良区(受益面積水田一二八ha、畑約四五ha)で確保していたところ、被控訴人の新たな水利権の取水量は毎秒平均五・一五立米で五倍弱なのに対し、受益面積は水田一二三〇ha、畑一五九〇haと水田で約一〇倍、畑で約三五倍となっており、水田で約二分の一、畑で約七分の一(合計でも約三分の一)と減るものであって、既得水利権者にとって極めて不利な結果となることは明らかである。

    結局川村飛行場水路がこれまで確保していた水は農地造成(四八〇ha)などで増やした農地にまわされることになるが、この結果は本件変更計画の受益農地全体の慢性的水不足を予想させるものである。

  2 しかも被控訴人はパンフレット(乙四六号証)に既得水利権問題を全く掲載していない。その後の被控訴人が関与するパンフレットでは次のように変遷している。

    平成六年六月(甲九八号証)

    「この事業では畑地かんがい等にかかる新規水利権と既存の水田にかかる既得水利権とを合わせて農業用水として川辺川ダムから取水する」 

    平成八年六月(甲九九号証)

    「既得水利権者の同意のうえに既得水利権は、国営事業によって新たに取得する水利権に置きかわる」

   右のとおり被控訴人の九州農政局川辺川農業水利事業所は平成八年六月に至って、既得水利権は本件変更計画とは関係なしに既得水利権者の同意によって新たな水利権に置きかわる、すなわち消滅することを認めたものである。

  3 ところで、原審における進行協議の際、被控訴人代理人は既得水利権者が同意しなくとも本件変更計画の実現により既得水利権は事実上消滅(死滅)するとの説明をおこなっている。

    しかしながら、川辺川関係の既得水利権の消滅は本件変更計画とは何ら関係がないのであって、かつ川辺川ダム建設とも本来は何ら関係がないのである。もっとも、川辺川ダム本体工事の着工により、確保されている水量が減るのであれば、当然既得水利権に対する侵害であり、既得水利権に基づき妨害排除(ダム建設差止)請求を出来ることは明らかである。

    さらに川辺川ダムの完成運用により確保される水量が減る場合も同様に既得水利権による妨害排除(ダムによる流水の貯溜制限)請求できることも明らかである。これは本件変更計画による施設の有無を問うものではないのである。

  4 被控訴人は原判決で約七五・一%の同意しかない本件変更計画をあくまでも強行しようとしているが、その結果はそれぞれの地区での三条資格者の様々な抵抗を巻き起こすことにしかならないものである。現在、関連事業についての辞退運動が行われているのもこうした動きの一つである。

 

  四 水は土や日光と共に農業になくてはならないものである。しかしながら、農業において何よりもなくてはならないものは農業の担い手たる人間(農民)である。原判決によっても本件変更計画の三条資格者の四割を越す原告や補助参加者が裁判に立ち上がっていたのであり、ここに本件変更計画のもつ決定的な問題点が明らかにされているのである。

   控訴審におかれては、一日も早く公正な判断をしていただきたく、控訴理由書を提出するものである。