伝説紀行 黒髪井戸 筑前町(夜須) 古賀 勝作
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僕は筑紫次郎。筑後川のほとりで生まれ、筑後川の水で産湯を使ったというからぴったりの名前だろう。年齢や居所なんて野暮なことは聞かないでくれ。 筑後川周辺には数知れない人々の暮らしの歴史があり、お話が山積みされている。その一つ一つを掘り起こしていくと、当時のことが目の前に躍り出てくるから楽しくてしようがない。行った所でだれかれとなく話しかける。皆さん、例外なく丁寧に付き合ってくれる。取材に向かうときと、目的を果たして帰るときでは、その土地への価値観が変わってしまうことしばしば。だから、この仕事をやめられない。 |
福岡県筑前町夜須
五玉神社の黒髪井戸
いくつになっても黒髪は憧れ(だった) 日本の女性は、古来より「カラスのときは、五玉神社が建てられた宝暦4(1754)年よりずっと以前のこと。夜須の郷(現福岡県筑前町)に権兵衛とトキの夫婦が住んでいた。 「あたしの髪が、黒かったら」 トキさんは今日も鏡の前でため息ばかり。 「今より綺麗になってどげんするとか?」
権兵衛さんは、奥さんのため息が気に入らない様子。 「そうなったら、あんたよりもっとよか男を旦那にしたい」とも言えないトキさん、ただ恨めしそうに髭面の亭主の顔を眺めるばかり。 いつものように田んぼの雑草抜きをしていたトキさん。ふと空を見ると白色と黒色の2羽のカラスが三箇山に向かって飛んでいった。しばらくすると、2羽の黒いカラスが三箇山から降りてきて南の方に飛んでいった。 写真:白いカラスは、日本野鳥の会筑豊支部広塚氏が福岡県香春町で撮影したもの(西日本新聞より)。 白いカラスが黒くなった トキさんは、翌日もまた同じ光景を目撃した。そこで亭主の権兵衛さんの手を引いて、三並川を遡り、三箇山に分けいった。鳥の羽音がするので岩陰から覗くと、夫婦の目は一点に釘付けに。
権兵衛さんがあっけに取られている間に、トキさんはさっさと着物を脱いで、先ほどまでカラスが浸かっていた水に白髪頭を浸した。 五玉神社は、文字どおり5個の丸い石を神さまとして祀ったお宮さんだ。普通の神社と違うのは、むかしだったら人も寄り付きそうにない山の中ということ。しかし、女性が丸い石を抱けば欲しかった子宝に恵まれるとあって、信仰深い皆さんがはるばる山を登っていきなさったのだろう。
さて、白髪頭を黒髪に染めてくれる五玉神社の井戸はというと、夜須高原の国立少年の家のすぐそばにあった。神社の拝殿脇の井戸を覗くと、物語どおりに綺麗な水がこんこんと湧き出ている。こんなに綺麗な水に浸ければ、白髪も黒く染まるかもしれない。 |