伝説紀行 振動の滝 九重町
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僕は筑紫次郎。筑後川のほとりで生まれ、筑後川の水で産湯を使ったというからぴったりの名前だろう。年齢や居所なんて野暮なことは聞かないでくれ。 筑後川周辺には数知れない人々の暮らしの歴史があり、お話が山積みされている。その一つ一つを掘り起こしていくと、当時のことが目の前に躍り出てくるから楽しくてしようがない。行った所でだれかれとなく話しかける。皆さん、例外なく丁寧に付き合ってくれる。取材に向かうときと、目的を果たして帰るとき、その土地への価値観が変わってしまうことしばしば。だから、この仕事をやめられない。 |
07.03.18
07.06.17
大分県九重町
周囲数キロの大陥没地に震動の滝が(雄滝)
JR久大線の豊後中村から長者原を目指して登っていく。桂茶屋を過ぎて間もなく、左手に「日本一の夢の吊り橋」が目に入る。筑後川の源流地帯であり、大むかしに火山活動で陥没したところに、豊富な鳴子川の水が流れ落ちている絶景である。滝の名前を「震動の滝」という。名前のとおり豪快に流れ落ちる様は、一幅の掛軸を鑑賞する気分である。 120bの高さから流れ落ちる「男滝」と「女滝」の二筋を有する滝が間近に見られる。昨秋の開業以来、近郷近在から観光客が押し寄せている。滝壺周辺が何かにえぐられたように、周囲数キロのすり鉢状になっていることから、地元には面白い話が伝わっている。 老いぼれ竜神が爺さんに無理難題 もちろん日本に歴史が記される以前のことだろう。現在の九重町北方(ここのえまちきたがた)あたりに住むイイダという爺さんが、薬草を探して山奥に入り込んだときのことである。昼の弁当を食べ終わって横になった。胸が締め付けられるような息苦しさで目を覚ました爺さん。気がつくとでっかい鱗のようなものが体全体を締め付けている。 生きた娘を食いたい 「それで、わしにどうしろとおっしゃるので?」 竜神が地球をへこました 「これはきっと竜神さまの復讐たい」 あ 「はははは・・・、わかったか、竜神さまの神通力が。この裏切り者め」 震動はおさまったが・・・ 「こんなにおいしいものを食ったのは生まれて初めてじゃ。これでしばらく長生きができるじゃろう。もう娘は要らぬ」 先日、完成から半年を経た吊り橋に出向いた。「この橋の高さは、170bもありますけん」と、ボランティアのおじさんが声をからして観光客に説明していた。つい2年前まで、手前の方から遥か彼方の滝を眺めたものだが、本当に眼前で拝ませてもらえるなんて夢のよう。他の観光客もみな満足そう。 |