伝説紀行 カッパの恩返し 小郡市
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僕は筑紫次郎。筑後川のほとりで生まれ、筑後川の水で産湯を使ったというからぴったりの名前だろう。年齢や居所なんて野暮なことは聞かないでくれ。 筑後川周辺には数知れない人々の暮らしの歴史があり、お話が山積みされている。その一つ一つを掘り起こしていくと、当時のことが目の前に躍り出てくるから楽しくてしようがない。行った所でだれかれとなく話しかける。皆さん、例外なく丁寧に付き合ってくれる。取材に向かうときと、目的を果たして帰るとき、その土地への価値観が変わってしまうことしばしば。だから、この仕事をやめられない。 |
カッパの恩返し 福岡県小郡市
寒い冬も過ぎて、そろそろ田起こしの準備が始まると、「待ってました」とばかりにカッパ族が動きだす。人間にとってけっして敵ではない、宝満川のカッパを紹介したい。 宝満川はカッパの天国 舞台は、小郡市域を北から南に流れる宝満川。ときは江戸時代の中頃と心得あれ。当時の宝満川は、筑紫平野の農産物を都方面に運び出す重要な交通路だった。 絡みつく妖怪 そこで酒井さん、川岸で着物を脱ぐと風呂敷に包みこみ、長刀にぶら提げて担ぐことに。褌(ふんどし)一つになり、竹竿で行く手の水深を測りながら、川の中央にさしかかった。そのとき、右足の脛(すね)が妙にむず痒い。なにやら得体の知れない生き物が絡みついているらしい。持っている竹竿で払いのけようとするが、相手はますますくっついて離れようとしない。
酒井さんは、絡みついている妖怪がカッパであると判定した。酒井さん、実は知る人ぞ知る「妖怪生態の研究家」でもあったのだ。 カッパは悪さをするものか? 酒井さんは岸に上がると、切り取ったカッパの手を柳の枝に括りつけた。カッパが切られた手を取り返しに来たとき見つけやすいようにとの心遣いである。酒井さんの研究によれば、カッパはいったん離れた自分の手を元通りにくっつける特別な能力を有しているはず。だから、カッパは切られた手を必ず取り返しに来るはずだ。 カッパは骨接ぎの名手 「そげん言わるると、本当に見たわけじゃありまっせんばってん、年寄りの話だと、そげな悪かこつばするとはカッパしかおらんそうですばい」 「黙れ、黙れ。言わせておけば勝手なことばかり。拙者の研究では、カッパは人間にそのような悪さはしない生き物なのだ。それどころか、溺れかかった子供を助けたり、干上がりかけた田んぼに水を足したりして、よかことばかりしておる」写真:小郡市端間の福童神社 400年たって… あれから400年が経過して、今は令和の御世とあいなった。宝満川の環境もすっかり変化して、カッパ族がどこでどんな暮らしを営んでいるものやら、とんと噂も聞かなくなった。 |