伝説紀行 童子丸 うきは市吉井
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僕は筑紫次郎。筑後川のほとりで生まれ、筑後川の水で産湯を使ったというからぴったりの名前だろう。年齢や居所なんて野暮なことは聞かないでくれ。 筑後川周辺には数知れない人々の暮らしの歴史があり、お話が山積みされている。その一つ一つを掘り起こしていくと、当時のことが目の前に躍り出てくるから楽しくてしようがない。行った所でだれかれとなく話しかける。皆さん、例外なく丁寧に付き合ってくれる。取材に向かうときと、目的を果たして帰るときでは、その土地への価値観が変わってしまうことしばしば。だから、この仕事をやめられない。 |
小江の童子丸 福岡県うきは市(旧吉井町)
うぶ娘を人柱に 土蔵づくりの街並みで有名な吉井町。北部の筑後川堤防内側の河川敷に、幅70メートル、長さが400メートルにも及ぶ大きな池が横たわっている。土地の人は、決して涸れることのない「童子丸(どうじまる)」と呼んでいる。
「むかしから言わとるごと、土手に初心(うぶ)な女の子ば生きたままで埋めて、水神さまに捧げるしかなかじゃろか」 水神への人身御供 男衆の話をそばで聞いていたおかつ婆さんは、庄屋さんを池に連れて行った。 石組みが流されなかった 甚兵衛さんは再び村中に
「あん時の白いきもん(着物=白衣)ば着た童が言ったこつは、本当じゃったつばい」 小江村では、村を救ってくれた童の恩を忘れまいと、水神さまが住むという池のあたりを「童子丸」と名づけた。あれから数百年が経過した今日、池のあたりで見知らぬ白衣を着た童が遊んでいるのを見かけたと言う人がいたが、見かけた人がどなたか誰も教えてくれない。 |