読後感想文






 OHさん
(久留米商業OB)

 先日は同窓生のお店・黒田天狗の席で、御著書「まぼろしの久留米縞・小川トク伝」という貴重な限定本を贈呈頂き、厚く御礼申し上げます。
早速紐解き、ページを捲っているうちにだんだんとひき込まれ、一気に読み上げてしまいました。
 つきましては、誠に僭越ではございますが、私なりの感想を述べさせていただきます。
 まず、主人公の小川トクですが、埼玉県の出身と知り、尚更親しみが湧いて参りました。といいますのは、私の会社生活で一番充実していた丸の内本社勤務時代に、一時埼玉県に居を構えていましたので、トクの生まれた村あたりはよく知っています。今では都会へと変貌してしまいましたが、当時は機織りや紙漉きが盛んな静かな村でした。
 作品は伝記ものでありながら小説風に仕立ててあり、肩が凝らず読み易く感じました。トクが江戸に出るいきさつなどは娘の身売りとは違うものの、当時の山村の生活の厳しさと江戸への憧れを、初恋と悲しい息子との別れという設定で見事に表現されています。
 有馬藩の上屋敷に奉公し、時代に流されて久留米へと移住するくだりは、当時の武家社会の混乱と動揺が偲ばれますし、筑後川を渡るときに、「この川は三途の川か」と言ったトクの心境が痛いほどよく分かります。
 肝心の久留米縞についてですが、実は井上伝の久留米絣のことは知っていましたが、久留米縞のことは全く知りませんでした。そういった意味では、私の古ぼけた知識の箱の中にまた一つ小さな宝石を入れていただいたと感謝しております。
 久留米に落ち着いたトクは、自立の道を探さねばならず、井上伝の久留米絣を見て、昔親しんでいたはた織りの知識から、「もっと効率よく織れて皆に喜ばれる丈夫で安い反物を」と思い立ったのは、単なる生活のためとはいえ、トクの持って生まれた才能の結果だったのでしょう。
商売のことは何も分からず、単に織り子として暮らそうとしていたトクを、庄兵衛やシゲは温かく支え励ます一方で、トクの久留米縞を伝の絣同様に、久留米の名産に仕立てたいという気概が伺えます。
 話は飛んで、娘浅乃の死をはじめ、お世話になった人々が次々に旅立って孤独な生活を強いられる中、トクの孫が迎えに来るくだりは、事実とはいえ、小説としての面白さを十分に味あわせて頂きました。50年ぶりに故郷に帰り、両親の墓の前で号泣するトクの姿に、思わずこちらの胸も熱くなり、目頭が潤んでしまったものです。
 ところで、表題の「くるめんあきんど」のことですが、このご本を読んでいるうちに、トクは果たしてくるめんあきんどだろうかという疑念を持ちました。トクは単に久留米縞を開発した技術者であり、それを世に広めたのはあくまでも本村庄兵衛や大石平太郎、国武喜次郎、そして裏方のシゲであって、彼らこそが本当のくるめんあきんどではなかろうかと思ったのです。
ところが同級生の林洋海君も書いていましたが、足袋の雲平やからくり儀右衛門などそうそうたる商人が誕生し、日本中に久留米商人ありと一躍名をとどろかせた時代、それを支える技術者もまた商人に違いないと思いなおしました。
そういった意味では、トクも立派なくるめんあきんどの一員だったのですね。
 以上思ったままを遠慮なく申し上げましたが、貴兄の考えと違う部分があるかもしれません。その節は、一素人の読書感想文だと思ってどうかご容赦ください。
 ここしばらくは穏やかな日和が続いていますが、季節はめまぐるしく変わって参ります。末筆ながらくれぐれも御身ご自愛の上、ご健筆を揮われんことをお祈り申し上げます。
早々
平成27年4月22日

「くるめんあきんど物語 まぼろしの久留米縞 小川トク伝」の全文は、本サイトに掲載しています。

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