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第二十六話 運命を定められた王子の物語


 これは…話の筋的に、日本でもっと人気があってもよさそうなものなのに、何故だか多くの本で無視られている物語。
 でもって、発見当時はカンペキだったのに、保管してあった建物が火薬の爆発で吹っ飛んだ時、いっしょにバラバラになってしまったという、何だか勿体ない物語…。
 エジプトの物語なのに、あまりエジプト的ではないところもミソです。
 それでは、物語をドウゾ。


 ―――むかし、むかし、あるところ(っていうかエジプトですが)に、子どものない王様がいました。
 王様は神様に「子どもが欲しいです!!」と祈り、神々によって子どもが授けられました。
 たぶんクヌム神あたりがろくろでゴリゴリ作ったんでしょう。

 月日を経て、王様のところには立派な男の子が生まれました。
 子どもが誕生すると、運命を授ける七人のハトホル女神がやってきます。
 七人のハトホル、とは、ハトホル女神の分身たちで、運命を定める女神様たちです。(それぞれに名前があったかどうかは不明です)

 彼女たちは言いました。
 「この子は、ワニか蛇か犬によって命を落とすだろう。」

 王様「えーー!!!(ショック)」

 マジですかー。
 そんな。確かビントネフェルの時もそんな不吉な予言してましたけど、女神様…。
 王様が悪いことでもしましたか…?

 せっかく授かった子どもが命を落とすなんて。でも、神様の言うことは絶対です。
 王様は、ワニも蛇も犬もいなさそうな、砂漠の真ん中に神殿風の石の建物を作らせ。そこに子供を隔離したのでした。
 運命に逆らうというよりは、運命の来る日を遅らせたかったようですね。

 それから、またも月日は流れ。
 念入りに運命の動物から遠ざけられていた彼は、それまで、ワニも蛇も犬も見たことがありません。館のテラスからたまたま、見た犬に、ビックリしてしまいます。そして、自分もあの動物が欲しい! と思うようになりました。

 …なんだか、いばら姫みたいな展開ですが、いばら姫はただ眠りにつくだけなのに、この王子は運命に従うと永遠の眠りについてしまうのですから、シビアですよねぇ。

 ちなみにエジプト人、信心深いので、基本的に神様に逆らったりしません。
 「運命はいつか訪れるもの。それを変えることは出来ないのだから、いいだろう。あの子の好きにさせてやりなさい」
父・王様は、息子に元気な小犬を与えてやるのでした。

 王子はさらに言いました。
 「僕は、ここで何もせずに終わるのでしょうか。運命は既に決められています。神はお決めになったとおりになさるでしょう。」
 どうせ死ぬなら、その前に世界を見たい、と。
 そこで王様は、息子のために旅立ちの道具を一式そろえてやりました。馬車に武器、従者とお金。
 Lv1なのにフル装備です。さすがだ王子様。

 こんだけ装備してりゃ負けないっての。(ちなみにエジプトに馬車が登場するのは新王国時代以降)
 王子は、荒れた北の土地を目指して旅に出ました。たどり着いたのは、ナハライン(ナハリーン)という国です。
 この言葉は西セム語で「二つの河」をあらわし、おそらくシリアの一地方にあった国だろうといわれています。

 さて、この国には一人の美しい王女がおりましたが、王様が求婚者を退けるため、娘を高い塔の中に監禁しておりました。そして、「あの高い塔の窓に飛び上がって、届いた者に王女をやろう。」とか、ムチャクチャ言ってたのです。
 王女様、ラプンツェル状態。だけど、垂直飛びで婿を選ぶって、どうですよ。^^;

 エジプトの王子がやって来たのは、まさにこの婿選びの最中でした。
 どこからやって来たのかと聞く人々に、王子は答えます。「僕はエジプトの将軍の息子です。母は死に、父はちがう女と結婚しました。その女がいじわるをするので、逃げてきたのです。」

 …嘘ですが。
 これを信じた人々は、「ああ! 苦労したんだ君はっ」とばかり王子をギュッと抱きしめるのでした…。

 王子はここで、皆に良くされて過ごしましたが、その間、だれ一人として王女のいる窓に届いた者はありませんでした。
 ある日のことです。
 王子は思いつき(?)で、この奇妙な求婚の競技に参加してみました。するとなんと! 今まで誰が挑戦しても届かなかった王女の窓に、いとも簡単に届いてしまったのですっ。
 王女「素敵…。見た目も好みだし、ついに私のお婿さんが決まったのねっ!」

 家臣は急いで王様のところへ報告に行きました。
 でも王様、異国の若者に娘をやるなんて許せません。「エジプト軍人の息子だとぅ? そんな奴、エジプトに追い返してしまえ!!」
 …激しく怒る王様。しかし既に王子にゾッコン(表現が古いか…)な王女は、「何を言うのよお父様! この方を追放するのなら、わたくし、ハンガーストライキに入りますからねっ」と、激しく応酬。

 ならば、と王子を暗殺しようとした王様。パパは娘のために手段を選ばない。
 「そんなことをしたら私も命を絶つわ!!」
 王女は強い人でした。しまいに王様も折れ、エジプトの王子を娘の婿に迎えることにしました。
 かくして、エジプトからやってきた王子様は、ほとんど苦労もなしに王女様と結婚し(笑)、国を手に入れたのでした。

 …うーん。いいんだか悪いんだか。


 結婚した王子は、妻にエジプトを出た本当の理由を教えます。「神に与えられた運命により、自分は、ワニか犬か蛇によって命を落とすことになる」と。
 王子は、国から連れてきた犬、今はたくましい成犬になった、あの犬を連れています。
 妻は驚いて、「あなたの犬を殺しなさい」と言うのですが、王子は「あれは私が子犬のときから育てた大切な犬だから」と、殺そうとはしません。いい人です。
 王子がこんな調子で、運命を甘んじて受け入れるつもりなのを見て、妻はひそかに、「この人はわたくしが守る。」と、決意します。

 そして手始めに、王子が寝ているとき近づいてきた蛇を斧でバラバラにぶった切って守ります。
 「ご覧下さい。神はあなたの運命のひとつを滅ぼしてくれました。きっと、これからも守ってくださいます」
…強ぇエ…。
 神様が、っていうよか、あなたが守護女神様ですよ。


 ところで、王子がエジプトを出たとき、一匹のワニが、彼の命を狙ってついてきていました。
 神の与えた運命、「ワニか犬か蛇によって命を落とす」とは、ワニ全部、蛇全部というわけではなく、どうも特定のワニ・蛇・犬が王子の命を狙っている、と、いう意味だったようなのです。
 よって、命を狙う蛇を殺してしまえば、他の蛇にもう命を狙われることはなく、ワニも、王子を付けねらう一匹だけが危険なのだ…と。
 王子の「運命」は、今、運命のワニと、運命の犬にかかっていました。 

 この運命のワニは、王子の居場所をつきとめるまでは出来たようなのですが、河に住む水の精に阻まれて、どうしても河から出ることが出来ません。ワニと水の精とは、激しく争いつづけていました。

 ある日のこと…王子は、偶然、そのワニと出会います。 
 たまたま妻がおらず、犬と一緒に領地の見回りなどしていたところが、たまたま河に着いちゃった。王子様、自分の命がヤバいのに、ワニから隠れようとは思わないんですかね。

 しかもこの時、河には水の精も留守。
 ワニは言います。「今、水の精は留守なのだ。お前を見逃してやってもよいが、私を邪魔する水の精を倒すのを手伝ってくれないかね?」

自らの命を奪うべくさだめづけられたワニと出合ってしまった王子の運命は――?!

 −つづく。−


 さあて、ここからどうなるの?! というところですが、残念ながらパピルスがここで途切れてしまっています。
 続きは諸説あります。

1.犬がワニを殺すが、犬も死んでしまう(王子は運命に打ち勝つ)
2.ワニは犬に殺されるが、王子はその犬に誤って殺されてしまう(運命どおり)
3.水の精は実は王子の妻である王女。水の精を殺すのを手伝い、妻を失う(運命は変わるが不幸には違いない)

なんか、どれ選んでも王子あんまり幸せになれないような…。


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