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第十四話 2人兄弟の物語

−別称;インプとバタの物語−


 兄がひとり悲しんでいた頃。
 バタは、「松の谷」へ来て、一人暮らしをしていました。この谷での暮らしはそう楽ではありませんが、働き者のバタのこと、毎日、せっせと開墾や道具作りをして、昼間は砂漠で狩りをして、夜は、心臓を松(アカシア)の木にかけて眠りました。

(※砂漠で狩りが出来るのか? この神話はプトレマイオス時代になってから作られたものとされているため、厳密には古代エジプトの物語ではないのだろうが、成立場所からして、下エジプトのデルタ地帯を想定しているのではないかと思う。一説によると、松ではなく正しくは杉で、レバノン杉の生える谷、つまりアジア地方のレバノンへ行ったのだとされている。)

 そんな彼のもとに、あるとき、行幸していた大神たちがやってきました。大神というのは、ヘリオポリス九柱神のことでしょうか。七福神じゃないんだから、何もゾロゾロ来なくったって…とか、思いますが、来ちゃったものは仕方がない。
 神々は、インプとバタの過去のいきさつを知っておりました。例のプレー・ハラフティ神が話したのでしょうか。
 無実の罪に追われて一人、辺境にいるこの男を不憫に思ったプレー・ハラフティは、人間創造の神・クヌムを呼んできて、「この気の毒な男に妻を作ってあげなさい。」と、言います。クヌムとはヘリオポリス9柱神のメンバーではありません。はるか南のエレファンティネの神です。

 クヌム「この男の妻にする、美女を創ればいいんだな。」
 プレー・ハラフティ「そう、特注のをひとつ頼む」
 クヌム「任しときな。オレの腕はエジプトいちだぜ!」

 クヌムはろくろでゴリゴリ、絶世の美女を作り上げ、魂を吹き込んでバタに差し出しました。なんだかギリシア神話でヘパイストスが創る美女パンドラそっくりな話ですが、そもそも元ネタをギリシアから貰ってきて後世に作った内容らしぃんで、まぁ、似てるのは当たり前というか。
 さらに似なくてもよいところまで似てしまって、クヌムによって創られたビントネフェル(美の娘、の意)という女もまた、パンドラのように、罪を犯す宿命を背負った存在でした。

 ビントネフェルが創られると、七人のハトホル、という、ハトホル女神の影である運命の女神たちがやって来て、この女の未来を予言します。

 女神たち「この女は刃物によって、つまり、刑罰によって死ぬだろう。」

とても不吉な予言です。刑罰で死ぬってことは、その女は、将来、悪いことをするって予言されてるのです。

 しかしバタは、そんなの無視してこの妻にほれ込んでしまい、この上なく愛し、大切にするようになります。顔がいいからって、そんな…ねぇ。女に騙されて、酷いメに遭った後とは思えません。男って、バカですよね?(笑
 しかも彼は、妻に、すべての秘密を打ち明けてしまいました。自分の心臓の隠し場所と、それが地面に落ちると自分は死んでしまうのだということ。(これが後で、彼自身の死を招くことにもなります。)
 それから、谷から出て海へ行ってはいけない、ということも言いつけます。女の姿を誰にも見られたくなかったのです。

 ところが、妻ビントネフェルは、かなり身勝手な女だったので(殺されたインプの妻の魂が宿っていた、というのだが、だとしたらクヌム君が手抜きをしたということに…?)、言いつけをやぶって海に出てしまいました。
 すると海の神が彼女を攫おうとして、アカシアの枝が女の髪をひとふさ、取ってしまいます。本によっては海の神がいたずらをしたことになっているんですが、エジプトは海の神はいないので、おそらくフェニキアの海の神ヤムさんでしょう。もぉ、ヤムさんったら悪戯好き!!
 髪は海に落ち、波間を漂って、ファラオの洗濯場へ。
 神々によって創られた女の髪からはよい香りがし、この世のものとは思われないほどでした。
 ビントネフェルは人間芳香剤ですか…。

 さて、この髪を見つけたファラオは、「こんないい香りのする女は一体誰なのか」と、いうことを知りたがりました。
 宮廷に仕える学者たちに調べさせると、それは、神々に創られた美しい娘であるということが判明します。
 っていうか、どうして髪からそこまで分かるのか。エジプトの学者はサイコメトラーですかい。
 真剣にツッコミ入れたいところですが、まぁ勘弁しといてあげましょう。とにかく、分かっちゃったモンは仕方がないのです。
 王はこの娘を妃にしたいと考えて、早速、探しに行けと部下を送り出します。ま、どんな娘かは分かっても、住んでる場所まではわからんですよね。そこまでいったら、超能力者です(笑)
 
 そうこうしているうちに、バタが隠れ住む谷が発見されました。王様、出陣!
 こうして王様とビントネフェルは、アカシアの生い茂る谷間で、め〜ぐりあ〜い♪(古いか、この歌)
 しかもその木は、偶然にもバタの心臓が隠されている木と来たもんだ!

 一目遭ったその日から、恋の花咲くときもある。
 この時、ビントネフェルの胸に眠っていた恋の炎が、ヒートアップ。ファラオのたくましい胸にガバチョと飛び込んで、「お願い…私をつれて逃げて…!」
 スイマセン。今ちょっと遠い世界に行きかけてました。(笑)

 と、まあ、夫のある身でありながら、この不実な女は別の男に乗り換えようとしたわけです。ヒドイ話ですが、玉の輿ですし。相手は天下のエジプト王ですからね。分からんでも無いですが…
 ビントネフェルは王様に言います。

 「あの人は<以下、文字反転。多少、大人のお話です>カンペキな男でないの。なぜなら、兄に自分の潔癖を語るときに、自分の男根を切り落としてしまったから。あの人は私を、妹のように愛してくれた。でもそれでは駄目。あなたは完全に男らしい。
 さあ、王よ。この木を切り倒してください。そうすれば、あの人の心臓にかけられた魔法は解け、命は消えるでしょう。」

 下ネタ大好き、エジプト人。(※実際はこんな話は書いてません。書かなくても分かる、それが聴衆ってモンです。)

 王はこんな話を聞くと、がぜん燃え立ちました。手付かずの人妻、ときたもんだ! 萌えですよ。
 「うむ、心得た」とばかり、兵士たちに木を切り倒させます。
 すると、それまで誰も倒すことが出来なかった強い男、バタは、バッタリと倒れて(ギャグじゃありません)、死んでしまいました。

 ビントネフェル「嬉しい…。これで私はあなたのものね!」
 ファラオ「ははは。さぁ花嫁よ、私とともに行こう。たっぷりと愛してやるぞ」
 ビントネフェル「きゃーvv」
 バカップル!

 あわれ、命奪われたバタの体は、死体となって床の上に横たわったまま。
 しかし彼は、兄と別れるとき、こんなことを言っていました。
 「もし誰かがあなたにビールを渡して、それがこぼれたら、僕に何かが起こったというしるしです。すぐに来てください。」
 さあ。ついにその時です。
 兄インプは果たして現れるのか?!

<続く>



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