ED:06 町の放棄
<灰色の町・神殿前、ネフェルトとウェニが向き合って立っている>
ネフェルト
「ねぇ、お父さん…
どーしても、行かなきゃダメ?」
ウェニ
「当たり前だ。
お前ひとりで、ここに暮らせるわけがないだろう?
せっかく、ここまで作った町を捨てていくのは、しのびないが…
神殿の建造が中止され、ここでの仕事もなくなった。
もっと、河に近い場所で暮らしたほうがいいんだ。
分かっておくれ、ネフェルト」
ネフェルト
「・・・・・・。」
ウェニ
「さあ、もう行くぞ。アハトおばさんが、待ってる」
ネフェルト
「うん・・・・・・。」
<ネフェルト、振り返る>
ネフェルト
「お兄ちゃん…」
ネフェルト
「あたし、ずっと忘れないから。
ここのこと、ずっと、… ずっと友達だよ。
約束ね…」
<ネフェルト、去る。フェードアウト>
― ED:06 ―
大規模な神殿造営が打ち切られるとともに、
灰色の町は放棄され、人々は、谷を去りました。
戦乱の時代、多くの都市とともに、
多くの神々が、人々の記憶から消えていきました。
はるかな過去に生きた彼らの名も、姿も、
今はもう、知ることは、出来ません。
ED:07 時は流れて
<発掘現場。作業している父親の後ろで、小さな女の子が掘り出されたばかりの石碑を眺めている>
少女
「ねえねえー、お父さんー。」
<父親、振り返っる>
少女
「これなにー?
これー いっぱい絵がかいてあるよー」
父
「それはねえ。おおむかしの、碑文だよ。
神様に捧げた、祈りの言葉が書いてあるのさ」
少女
「なんて読むの?」
父
「こう読むんだ。
王暦5年 シュム季 第1月
灰色の谷のあるじ、人々の祈りを聞くもの、【】に捧ぐ
青い石の主人、
平穏もたらすもの、安らぎの守護者、
【】よ、生きよ、永遠なれ。
人は彼を愛し、彼を敬い、彼を慕うだろう
…だって。
きっと、【】というのが、
この谷の神様だったんだろうな。」
少女
「ふーん。
じゃーあー、その神様って、今も、ここにいるの?」
父
「さあ、どうだろうなぁ…。
もう、ずーーっと昔の神様だから…」
<画面の上から灰色の猫がゆっくり歩いてくる。>
少女
「あー! ねこさんー!」
<作業現場の人々が振り返る。猫、少女の前に立ち止まる。―フェードアウト>
― ED:07 ―
灰色の谷には、その後も人が住み続け、
細々と採石の仕事が続けられたようです
遥かな時を経て、かつての集落と神殿の痕は土に埋もれましたが、
今もなお、かつての住人の遠い子孫たちが、近くに村を作って暮らしています
人々が彼の名を忘れても、
彼は、これからもともにあり続けることでしょう
ED:08 偉大なる守護者
<立派な神殿の中庭。採掘場の労働者たちとメルカが向き合っている>
人足1
「じゃあ、神官さん。よろしく頼むな」
神官メルカ
「ええ、確かに承りました。また、よろしくお願いします」
人足2
「じゃ、わしらは、これで。」
<作業員たち去っていく。メルカは神殿の奥へ向う>
メルカ
「【】様、いらっしゃいますか?」
<神殿の奥、祭壇の上に主人公が現れる>
神官メルカ
「採石場の人々が、供物を持ってきてくださいました。
今季の作業も、ぶじ、終わったということです」
主人公
「うん。良かった。 いつもありがとう、メルカ。」
神官メルカ
「とんでもない。
町がこうして大きくなったのは、【】様ご自身のお力です。
谷間の奥深くにある、この町までは、争いの火種も飛んでこないだろうと、
人々が、ここに集まって来たのも自然ななりゆき。
それ以上に、ここを住みよい場所にしてくださっているのは、【】様のお陰です。
これからも我々は、【】様とともに生きてゆきます。
どうか、我らをお守り下さい」
主人公
「もちろん。
そう願ってくれる限り、僕は、この町を守り続けるよ。
ずっと…。」
<フェードアウト>
― ED:08 ―
灰色の町は戦乱の中で発展し、
その地方で、最も繁栄する都市となりました
人々は、信頼する都市の守り神のために壮麗な神殿を建設し、
その神殿には遠くからも、多くの人が参拝に訪れたといいます
彼の名は神殿に深く刻まれ、
動乱の時代にあっても、忘れ去られることは、なかったのでした
ED:09 大地を閉ざす者
<廃墟となった河岸神殿。学者と護衛兵を引き連れた若者が訪れる>
異国風の若者
「――ここが、
かつて、この国を統べた王、ニウセルラーの築いた神殿、か?」
老書記
「さようでございます。
土台部分を築いたのは、その前の王代ですが、
この小神殿については、ニウセルラーの銘が残されており、
新たに造営されたものと思われます」
異国風の若者
「なるほど…。」
<若者、一人で神殿奥へ入って行く>
異国風の若者
「何もないな…。
予想はしていたが、ずいぶんと荒れ果てている。
だが、良き土地だ。石材の質も、申し分ない。
完成すれば、千年の時を越えて残る、大いなる事業となろう。」
声
「…この神殿を、完成させるつもり?」
異国風の若者
「…?!」
<若者、驚いて左右を見る。神殿奥の壇上に主人公が現れる。>
異国風の若者
「…おお、これは… この地に住まう、守護神か?
それとも、この、未完成なる神殿を住まいとされる神か?」
主人公
「どっちでもない。
僕は、灰色の谷の主人。
採石場と、灰色の石を運ぶ人々の守護者。
この神殿を築いた岩の監視者にして―― 大地を閉ざす者」
異国風の若者
「大地を、閉ざす?」
主人公
「"永遠の家"に、真実が住まうとは、かぎらない。
偽りの神像を祀っても、神の加護は得られない。
ここは、真実の住まうところでは無く、
過去の王たちの過ちゆえに、今も閉ざされている。
もしも、あなたがここに神殿を造ろうとするのなら――
そのことを、忘れないで欲しい。」
異国風の若者
「人の一生は、短い。
自分と、その周りにある、ごく限られた事象を心に留め置くことに必死だ。
自分に関わりのない、些細な事柄を、記憶し続けることは、出来ない…。」
異国風の若者
「…だが、私は古きものをないがしろにしようとは、思わない。
灰色の谷間の主人よ、その言葉、決して忘れぬよう、我が心臓に刻み込もう」
主人公
「…良かった。
そう言ってもらえると、安心して、この土地を解放できる。
ありがとう、ジェドエフラー・セネブ。
東の方よりきたる人々の血を引く、新たな"二つの国"の王。
忘れないで。
あなたが僕らに話しかければ、僕たちは、それに答える。
あなたが耳を閉ざさなければ、僕らの声は、必ず届く。
自ら呪われしものとなったかつての王たちと同じにならぬよう、
ここには、真実の住まう家を築いて…。」
<フェードアウト。若者、一人で神殿を出てくる。老書記が近づいて話しかける>
老書記
「おお、ジェドエフラー様。いかがされました」
ジェドエフラー
「神に会ってきた」
老書記
「なんですと?」
ジェドエフラー
「王になるなら、決して前だけを見るな、時には歴史を振り返れ、と…忠告されたよ。
神々は、いつも我々の言葉を聞き、我々に語りかけている…。
ならば、人々に、それを忘れさせぬためのものが神殿ということになるだろう。」
ジェドエフラー
「ここに、神殿を築こう。
今まで誰も目にしたことのない、誰にも想像の出来ないような神殿を。
私のためではない。人が、絆を忘れぬよう。
千年先までも残るよう、人と神が、ともに生きたる証として」
老書記
「大事業になりますな。
何十年かかるかも、わからない」
ジェドエフラー
「そうだな。だが、きっと――。」
<フェードアウト>
― ED:09 ―
何十年にも渡る、戦乱の時代を経て\|
人々の暮らしは、落ち着きを取り戻しました
国を統一する、新たな王が生まれ
絶ち切られた人と神の絆を再び取り結ぶべく――
かつての王たちの神殿を再び建造しはじめました
彼は、谷の守護者を生涯の友とし、
その言葉を、決して忘れることは無かったといいます
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