■アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA |
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さて、前の裁判におして、表向きの決着はついたものの、心の中では納得していなかったスタルカズの息子ソルゲイルは、ギツルの娘との結婚により身内となったウンの息子、モルズに相談をもちかけていたた。
モルズは、オトケルの息子・ソルゲイルを抱き込むように、と助言する。これは、ニャールがグンナルに予言した、「同じ一族の者を二度殺してはならない、それはグンナルの死につながるだろう」と、いう予言を成就させるためだった。(過去に、グンナルはソルゲイルの父・オトケルを殺している。)
ニャールの予言は必ず実現する。これは、ニャール自身に予言の力があるからというよりも、彼が聡明で、将来の推測に長けていたからである。グンナルがオトケルの息子ソルゲイルを殺せば、それは、ソルゲイルの一族との修復しがたい不和につながり、血讐<フェーデ>の必要性を生み、グンナルの死に通じるとニャールには分かっていたのだろう。
この悪しき助言をうけて、スタルカズの息子、ソルゲイルは、オトケルの息子・ソルゲイルに近づき、知り合いとなる。彼らは、ともにグンナルに父を殺されたもの同士である。彼らは共謀してグンナル襲撃の計画を立て、それぞれ12名の手勢をひきつれて、森の中に潜んだ。
一方ニャールも、この襲撃に気づいていた。召使が、丘の上に24人の武装した者たちが潜んでいる、と告げたのだ。
彼はすばやくグンナルに指示を出し、人を集めさせることで、最初の襲撃を免れる。
襲撃者たちは逃げ帰っていくが、ニャールは、しばらく警戒は解かないほうがよかろう、とグンナルに忠告する。
結局、この襲撃事件は明るみに出され、民会によって裁かれ、ふたりのソルゲイルは、発案者モルズをなじって終わった。だが、これで終わるとは、グンナルも、ニャールも思っては居なかった。
民会のあと、グンナルは、義兄弟である「孔雀の」オーラーヴのもとを訪れ、襲撃を知る役に立つようにと、賢い犬、サームを譲り受けた。
やがて、再び襲撃の計画が立てられる。
ふたりソルゲイルは再びモルズのもとを訪れ、策を津困れた。今度は、オトケルの息子ソルゲイルが、グンナルの身内、オルムヒルドを誘惑するという作戦に出る。グンナルとケンカをする口実を作るためだ。
その狙いは的確だった。身内の女性を公然と誘惑されたグンナルはオトケルの息子ソルゲイルに対し憤りを抱くようになり、彼らの間には、緊迫した空気が流れるようになる。
やがて時は過ぎ、夏が来た。グンナルは、弟コルスケッグとともに武装して出かけていた。ソルゲイルたちは、そのときを待っていたのだ。
グンナルは、自分の矛が赤く染まるのに気づき、戦いの前兆を読み取るが、逃げようとはしない。ソルゲイルたちの襲撃を待つ。
グンナルは、弓の名手である。襲撃者たちが現れたとき、遠くから弓を射て襲撃者たちを倒していくが、しゃにむに突っ込んでくる相手には間に合わなくなり、やがて混戦となる。
そして、スカルカズの息子ソルゲイルの狙いどおり、の息子ソルゲイルを自らの手で殺してしまうのだ。
戦いの中、手加減など出来ない状況だったにせよ、彼は、ニャールが「命に関わるだろう」と、いった禁忌を犯してしまった。
もちろんモルズは、最初から、それを狙ってオトケルの息子ソルゲイルを仲間に引き入れさせたのだから、捨て駒だったことになる。気づかなかったソルゲイルも哀れだが、身内に対する、モルズの狡猾で残忍な作戦に踊らされた、スタルカズの息子ソルゲイルも哀れかもしれない。
この件は、オトケルと仲が良く、かつて一度グンナルを訴えたことのあるギツルが告発することになり、訴訟が行われた。
グンナルと、その弟コルスケッグは、殺人のかどで3年間の国外追放。もし、この取り決めを守らなければ、殺した者の身内に報復を受けてもいたしかたない、と、いう判決が下された。
この時、スラーインも、また、ニャールの息子であるグリームとヘルギも、彼らとともに外国へ行くことを望む。
全ては、うまくいくかに見えた。
だが、船で島を出る寸前になって、グンナルは、突然、自分はここに残ると言いはじめる。屋敷と、その後ろに映える山の美しさに心を奪われたためだった。
彼はかつて、デンマークとノルウェーの王に仕えることを拒否した男である。
それが、名誉に興味がなかったからではなく、故郷に対する思い入れからだったとすれば、この部分は納得がいく。身の保証を得て他国に暮らすことよりも、殺される危険を背負いながらも、故郷に居たかったのではないか。
訴訟による判決が、そこまで計算に入れたものだったかどうかは、わからないが。
兄弟は、別れを予感した。グンナルの弟・コルスケッグは、これで別れだ、兄さんはたぶん殺されるだろうし、そうなったら自分がこの国へ戻る理由は何もないから、と言って、アイスランドを出て行く。そして、本当に二度と戻ってくることはない。
追放の宣告を受けたものに、人権は認められないも同然だった。殺されても、罪を負うことはない。
グンナルの追放を宣誓したギツルは、グンナルが国に残ったことを知るや、襲撃の計画を練り、グンナルに敵意を持つものたちをかき集める。この盟約には40名が参加した。襲撃の時が迫っていた。
それを知ったニャールは、グンナルのもとに忠告に来て、戦いに備えて息子を加勢させよう、と言う。だが、グンナルはそれを受け入れない。
彼は、故郷で死ぬつもりだった。
グンナルは、自分が死んだあと、息子のホグニのことを気にかけてやって欲しい、とニャールに頼む。だが、もう一人の息子、グラニのことはほっといても構わない、と。
その後も、死を覚悟した彼は、追放を受けていない者のように、堂々と歩き回っていたという・
モルズは、グンナルが一人でいるときを狙わせた。
襲撃者たちはまず、かつてグンナルが義兄弟から譲り受け、番犬としていたサームを殺す。だが、忠実な番犬はこときれる寸前に最期の一声を発した。役目を果たしたのだ。
襲撃を知ったグンナルは、素早く矛を取り、屋根から様子をうかがいに来たノルウェー人を突き殺す。
戦いは始まった。弓の名手グンナルは、弓で遠方からも攻撃し、用意には近づけない。
戦いは長く続いた。
だが、ついに弓づるが切られ、グンナルは、遠くから攻撃するすべを失った。
「失った弓づるのかわりに張るために、お前の髪をくれ」と、グンナルは、妻ハルゲルズに言う。だが、妻は笑って答える。いまこそ、かつて夫からもらった殴打(※オトケルの小屋からチーズとバターを盗んだときの)を思い出そう、あなたはここで死ねば良い、と。
こうして、グンナルは、不利な接近戦で戦うしかなくなった。
ハルゲルズは、恨み深く、夫の命の危機に際し援助を拒むことで、夫の死を招いた――。
戦いは、グンナルが疲れて倒れてしまうまで続いた。グンナルを見殺しにしたハルゲルズは、グンナルの母ラングェイグに激しく謗りを受け、息子グラニとともに逃げ去った。グンナルの財産の大部分は、息子ホグニが次ぐことになった。
ニャールは深く悲しみ、二度と悲劇を繰り返したくないと思うが、ニャールの息子スカルプヘジンは、親友の死に報復することを誓う。
一人の死は、さらに多くの死を要求する。
グンナルのあとを継いだホグニは、父の埋葬の終わったその晩に、父の形見の矛を手に、スカルプヘジンととに、殺害者たちを襲撃する。グンナルにとどめをさしたフローアルドをはじめ、4人が瞬く間に殺された。残ったのは、モルズだけだった。
この件で訴訟が行われた。
彼らは協定を結び、これを一生破らなかったという。ホグニは妻をめとり、ニャールとは終生かわらぬ友情を誓い合う。
一方、グンナルの弟、コルスケッグについてだが、国を出た後、ノルウェーからデンマークへ行き、そこで洗礼を受けたあと、結局コンスタンチノープルまで行って、そこで結婚し、皇帝に仕えた、ということである。
彼については、これ以上、何も知られていない。