アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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 物語は、序盤で中心となるフルートとウンの家系を語るところから、始まる。

 フルートはホスクルドの腹違いの弟で、聡明な男といわれていた。一人身だったフルートは、兄のホスクルドに勧められ、結婚を考えるようになるのだが、その相手がウンという女性だ。
 ウンは賢く家柄も立派とあって、地域で最高の縁組相手と言われていた。
 当時の社会では、結婚はすぐに行われるのではなく、一定の婚約期間を置くのが通常で、フルートも、半年の婚約期間を設けることにした。順調にいけば、半年後にめでたく結婚というわけだ。

 しかし、婚約の直後、フルートのもとに叔父オツルがあらわれて、フルート兄であるエイヴィンドが死に、遺産を管理するソーティという男との間で揉めていることを告げた。正当な財産の後見人が現れなければ、兄の遺産はすべて、ソーティのものとなってしまう。早急な旅立ちが必要だった。
 そこで婚約期間は3年に延長され、フルートは、未来の花嫁をおいてノルウェーへと旅立った。


 さて、フルートは、遺産相続をめぐる問題を容易にするため、まず、ハラルド美髪王の孫にあたる「灰色マント」のハラルドの侍従として、仕えることにした。彼は聡明であると同時に逞しく美貌の男でもあったから、すぐに、王の母グンヒルドに気に入られ、特別な関係を持つことになる。やがてグンヒルドの後ろ盾もあって、王の側近くに使える重要な地位につくことに成功する。

 王の寵愛を受けた者と訴訟で争うことは、著しく不利である。
 旗色悪しと見たソーティは、遺産を持ってノルウェーの南・デンマークへの逃亡を試みる。
 それを知ったグンヒルドは、いまや自らの愛人となった愛人フルートに船を与え、戦力として「汚れ」のウールヴという男を貸し出してくれる。さらにハラルド王からも船をもらいうけ、ソーティ討伐に向かった。
 しかしソーティは見つからず、代わりにアトリというならずものの率いる一団と出くわし、戦いになってしまう。
 戦いは激しく、ウールヴは戦死するが、フルートも、アトリを倒すことに成功する。
 一方、行き違いになったソーティは、グンヒルドの侍従オグムンドに発見され、殺される。遺産を取り戻したソーティは、その中からハラルドと王妃グンヒルドに十分な謝礼を支払い、ノルウェーでの地位をさらに確かなものにした。

 だが、故郷を離れた者に大半がそうであるように、フルートの胸にも、やがて、アイスランドへ帰りたい、という気持ちが強くなっていく。

 アイスランドへ戻ることを決意したフルートに、グンヒルドは言う。
 あなたは私を信用しなかったが、わたしもあなたにお返しをしましょう、と。グンヒルドは、フルートが自分を利用していただけだと最初から知っていたのだ。「もし島に恋人がいるのなら、呪いをかけてあげる。意中の女とは添い遂げられませんよ」

 島に帰り、フルートはウンと結婚する。だが、グンヒルドの呪いのためか、島での結婚生活はうまくいかなかった。
 父に相談したのち、ウンは離婚を決意する。父親のモルズは娘に助言を与え、どうすれば正式な離婚の手続きが出来るのかを教える。彼女はそのとおりにし、夫が留守の間に、実家に帰ってしまうのだった。

 モルズは、娘が結婚したときの持参金を返却するようフルートに求たが、フルートは応じない。自分には何一つ落ち度はないのだから、返還する義務は無いと言うのだ。もし、どうしても返還を要求すれのであれば、決闘を要求する、と言う。
 フルートは若く逞しく、モルズは年老いている。また、モルズに代わって戦う者もいない。
 結局、決闘は不名誉になるだけと悟ったモルズはそれ以上の要求を諦め、モルズとフルートの争いは終わった。

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 ここから話は、フルートの姪にあたる、異父兄ホスクルドの娘・ハルゲルズへと移っていく。
 彼女は、美しいが「盗賊の目を持つ」、気性の荒い、浪費癖のある娘だった。その髪は体を覆うことが出来るほどに長く、背が高い。
 この、いわくある娘に、オースヴィーヴィルの息子ソルヴァルドが求婚した。
 オースヴィーヴィルは、娘の性格に問題があるとして結婚を止めようとするのだが、息子は聞き入れない。ハルゲルズの父・ホスクルドも、娘をさっさと嫁にやりたいばかりに、娘の意向を聞かず勝手に結婚話をまとめてしまう。

 気の強いハルゲルズは、自分に話を通さずに決められた結婚に。乗り気ではなかった。そのためか、この結婚はあまり長くは続かない。
 嫁ぎ先で揉め事が起こり、夫ソルヴァルドがハルゲルズを平手うちしたことから、同行していたハルゲルズの養父・ショーストールヴが怒り、ソルヴァルドを斧で打ち殺してしまうのだ。
 ハルゲルズは父ホスクルドのもとへ帰り、殺人をおかしたショーストールヴは、魔術を心得たソルゲルズの弟スヴァンのもとに身を寄せる。
 息子を殺されたオースヴィーヴィルは、報復のためショーストールヴを追いかけるが、スヴァンの幻影に惑わされて、たどり着くことが出来ない。かわりに、ハルゲルズの実家に賠償金をもとめ、仲だちとなったフルートは、兄ホスクルドに、賠償金を払ってこの争いに決着をつけることを提案する。

 オースヴィーヴィルとホスクルドは、和解して、双方とも穏便に別れたということだ。

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 この争いのあと、ハルゲルズは、グルームという男と再婚することになる。
 グルームはオーレイヴの3人の息子たちの3人目で、長男がソーラリン、次男がラギという。最初にハルゲルズの意向を尊重したお陰で、今回の結婚はうまくいき、ハルゲルズとグルームの間には、ソルゲルズという母親に似た美しい女の子が生まれる。
 グルームの兄弟たちは、この結婚に際して、妻の養父・ショーストールヴとは近くに住まないほうがよいことを忠告していた。何しろ、前の花婿を殴り殺した殺人者なのである。しかし、ショーストールヴが身を寄せていたスヴァンが死んでしまい、引き取り手がなくなったことから、ハルゲルズは、頼ってきた養い親の面倒を見なくてはならなくなる。

 妻の頼みで、グルームはこの男の滞在を承知する。だが、気の荒いショーストールヴのこと、すぐに皆と諍いをおこすようになってしまい、ここでも不評だった。
 あるとき、ショーストールヴとグルームの奴隷たちが言い争いとなった。グルームは、争いの種になるこの男を追い出そうとするがハルゲルズは養父であるショーストールヴの肩を持つ。そして夫婦喧嘩になってしまった。
 ハルゲルズは、この二番めの夫を愛していた。だが、ショーストールヴは勝手に復讐を遂げてしまう男だ。
 夫が殺されることを恐れたハルゲルズは、ショーストールヴに、自分たちのことに手を出さないで欲しい、と頼むが、ショーストールヴは勝手に謀ってグルームを殺してしまう。
 このとき、ハルゲルズの胸には、養父に対する恩や愛情よりも、愛する夫を殺された憤りが芽生えていたのだろう。
 さりとて、表立って不満を口にすることもなく、自分で手を下すことはしなかった。その代わりに、第三者に裁きを代行させたのだった。

 ハルゲルズはショーストールヴを、叔父フルートのもとへ送る。賢いフルートなら、事態を察して、始末をつけてくれるはずだったからだ。
 そして事実、そうなった。
 フルートは、ショーストールヴが何も知らずに自分のもとへ送られたことで、ハルゲルズがグルーム殺害を望んでいなかったことを知る。そして、ショーストールヴを殺してケリをつけ、殺されたグルームの兄ソーラリンに賠償金を支払うことで、すべてを円満に収めるのだった。


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