■アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA |
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人とともに住むことはできないと悟ったグレティルは、人の住まないアルナルヴァトン高原へやって来て、小屋を築き、住居とした。もう人からものを奪って暮らすことはしなかったが、闇を恐れる彼には、人との交わりを絶つことは辛かった。
そこにつけ込んだ、グリームという男がいた。近隣のフルータ・フィヨルドの人々が、グレティルを殺させるためにそそのかし、指しむけたのだ。
グリームもまた、追放刑を受けた男だった。グレティルを殺せば追放を解き、金をやると言われ、彼はやってきた。
もちろんグレティルを倒せば、その首にかけられた莫大な賞金も、我が物となるのである。
住むところはない、一緒に住まわせて欲しいと言って無理に住みこみ、グレティルの隙を狙い続けたが、うまくはいかなかった。
だが、あるとき、グレティルは眠っていて、剣を側においていないことがあった。グリームは忍び寄り、剣をふりかざした――その瞬間、グレティルは目を覚ました。
素手で殴り飛ばされて、グリームは半ば気を失った。もちろんグリームは殺された。グレティルは、人を信用するなというトルステインの言葉を、苦く思い出すのだった。
その頃、息子をグレティルに殺されたと思い込み、多額の賞金をかけたガルドのトーリルは、赤ひげのトーリルというならず者を雇っていた。
こちらも追放を宣告された男だったが、グレティルを殺せば追放をとき、金もやると言われ、グレティルのもとを訪れた。また裏切られるのではと思い用心するグレティルに、ことばたくみに近づくトーリル。結局グレティルのもとに暮らすことになり、そのまま2年が過ぎる。
その間、トーリルは良く働いたが、グレティルは決して心を許すことはしなかった。
2年目に大嵐が訪れた。
これをチャンスととらえたトーリルは、わざと船を砕き、船が流されてしまったが自分は泳げない、あなたが泳いで綱をとってきてください、とグレティルに訴える。
トーリルが船を壊したのだと見抜きながら、グレティルは言われたとおり水に入っていく。トーリルは服を脱いだ彼を襲うが、水に潜られ、打ち逃してしまう。
かわりにこの男が食らったのは、泳いで背後に回りこんだグレティルからの死の一撃だった。
それからというもの、グレティルは、決して仲間を持とうとはしなかった。
一人で夜を過ごすのは辛く、身を裂くようだったが。
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さて、自分の送り込んだ男が死んだことを民会で知ったトーリルは、もう我慢ならないと手勢を率いてグレティル討伐に向かう。
グレティルはよく防いだ。だが、トーリルは知らなかったが、そのときグレティルを援護していた、行きずりの者がいた。ハルムンドという男である。トーリルの手勢は18人が死に、もっと多くが怪我を負った。一人でこれほど防げる者は、そうはいない。
ハルムンドは、トーリルから見えないところでグレティルを守って怪我をしてしまっていた。彼はどういうわけか、見知らぬグレティルに力を貸してくれ、家に招待までしてくれた。
この、幸運に見放され、追放されてさすらう男の旅には、ゆく先々で、芽生えては失われる友情があった。
人とともに暮らせない性分でありながら、人をひきつけずにはいられない。
ハルムンドからミューラルへ行ってはどうかとの助言を受けたグレティルは、ひと夏をこの男のもとで過ごしたあと、秋には、ミューラルの勇士ビエルンのもとをたずねていく。
だが、ここにも、そう長くはいられなかった――。
ミューラルで三度の冬を過ごしたあと、再び放浪の旅に出る。漂泊の旅は続くが、やがて、執念に燃えるガルドのトーリルがグレティルの居場所を探り当て、追い詰めようとする。
「スカガ・フィヨルドのドラング島へゆけ」
助けを求められた、メドル丘の豪族グドムンドは言った。
「そこならば、己の力でおのが身を守れるであろう。」
その言葉を受けたグレティルは、久しぶりに、故郷ビヤルグへと足を向けた。
アイスランド中をさすらったこの男が、いよいよ最後の住みかへと近づこうとしている。