古今東西・北欧神話
イドゥン喪失
青春のりんごを持つ女神、イドゥンは、ラグナロク勃発に際し真っ先にアスガルド(ユグドラシル)から墜落することになっているのだが、単に落っこちただけではなく、世界の最下層・ヨツンヘイムまで落っこちた、というのが、この物語。
…そもそもヨツンヘイムってどのくらい深いんだろうか。落ちて大丈夫なのか。とかいうツッコミはともかく、この話はどうも、スカルド詩からの出典らしい。この詩の中で、イドゥンは「アールヴ(妖精)族の娘」と、書かれている。そりゃ初耳だよ。(オイ)
さて、ラグナロク間近な世界。
イドゥンはどういうわけかユグドラシルから転落し、地下世界へ落ちて(つまり死んで)しまうのだが、そこの女王であるヘルや死者たちの陰鬱な顔を見ているうちに、だんだん気分が悪くなってしまう。何しろイドゥンは生命力、若さの象徴である、りんごの管理人。死者の国とは相性が悪い。たとえるなら南国産の植物が寒くて暗い世界に突っ込まれるようなもの…か。
そりゃー、萎れるね、当然。(植物?)
ところで彼女がいなくなると困るのは、アスガルドの神々だ。彼女の持つ常若のりんごが無いと、年をとってしまう、というのは、「エッダ」にも言われているとおり。
オーディンは世界を見渡すフリズスキャールヴからイドゥンを探すが、どうやらとてつもなく寒い場所にいるらしい、としか、分からない。
そこで、イドゥンの夫ブラギと、千里眼のヘイムダルが召し出された。オーディンは彼らに一枚の毛皮を与え、イドゥンを探し出し、その毛皮で彼女を暖めてやるように、と言って送り出す。
寒いところといえばヨツンヘイムだろうとアタリをつけて赴いた彼らは、凍り付いて気を失っているイドゥンを発見する。
助け起こして連れ出そうとするが、なぜか、彼女自身がどうしてもそこから動こうとしない。ブラギはヘイムダルに、自分はここに残って妻を説得してみるから、先に帰って欲しいと言う。
仕方なくヘイムダルは一人でアスガルドに帰るのだが、ブラギも結局、イドゥンと同じように寒さにとりつかれ、毛皮で自らを暖めることも帰還することも出来なくなってしまう。こうして、詩神であるブラギを失ったことにより、アース神は、若さと歌を手放し、ラグナロクへ突入していくのであった…。
ラグナロク時の状況については、「巫女の予言」で語られている以外の部分では、かなり食い違いがある。
(たとえば、ヴィーザルがフェンリルを倒す方法など)
神々の戦いの時、既にイドゥンが失われていたというのはよく出てくるが、もしかすると、ブラギもいなくなっていたのかもしれない。ラグナロクが過ぎ去った時、生き残る神はほんの数名だが、他の神々が、どの時点で失われた(死んだ)のかは、他にも謎な部分が多い。
この物語の出典となったのはスカルド詩で、断片的なストーリーだった可能性がある。
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