「歩いてここに入ってきたのなら、走って出てゆかれよ。
光を見上げると人は目を開け、そして閉じて遮るものよ。」 −アルスル
主人公キルッフはKulhwch、またはCulhwch mab Kilyd(キリッズの息子キルッフ)と書き、名前の意味は「豚の囲い」。
なぜそんな名前がついたかというと、母である王妃ゴレイディズが、豚を見て恐れ、その場で出産したからである。…まるで聖徳太子みたいな出生エピソードだ。
キルッフは「キルフフ」、オルウェンは、「オルウェイン」となっている本も見かける。
物語は、名前や出来事の羅列の多い、話としては単調なものになっている。
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キルッフは、ケレドン・ウレディクの息子である。生まれたばかりの少年が養い親に預けられたあと、ほどなくして母親の王妃は病にかかり、王に言い残す。「再婚するときも、息子をないがしろにしないでください。自分の墓の上に、2つの頭をもつ茨が生えるまでは、妃を迎えないでください。」
王はそのとおりにし、墓は侍従によって、毎日、草も生えないよう掃除されることとなった。
しかし、七年目になったとき、侍従はその務めを怠ってしまう。墓には王妃の言い残したとおり茨が生え、王は、ドゲト王を殺して、その妃を攫い、自分のものにする。
新しい王妃には、娘がひとりいた。ドゲト王の子だ。ある日、自分の新しい夫にも息子がいることを知った王妃は、キルッフと自分の娘を結婚させようとする。だが、キルッフは、自分にはまだ早いからと拒否する。
すると王妃は、(拒否された怒りからか?)キルッフに呪いをかけた。
巨人の長、イスバザデンの娘オルウェンを勝ち得るまでは、どんな女性にも触れることは出来ない、と。
それは、彼に与えられた、とても大きな試練だった。
父であるケレドン・ウレディクは息子に助言し、親戚に当たるアルスル(アーサー)のもとへ行くようにと申し付ける。しかし、運悪く、アルスルの宮廷では、明日からはじまる宴のため、堅く門が閉ざされている。
門番は、しきたりを曲げてもいいものかと、アルスルのもとに伺いをたてに行く。それに対するアルスルの返答が、このページの冒頭にあるもの。つまり門番自身で見て立派であると思う人物が来ているならば、迎え入れよということだ。
気難しいカイは宮廷のしきたりを曲げるのは良くないと言うが、アルスルは、寛大であることが名誉のためであると答える。
さて、宮廷に入ってきたキルッフは、アルスルに髪を整えてくれるよう願い(※”髪を整える”とは、島の古伝承では親密な関係になること、ことに血縁を認めることを意味した)、アルスルの第一の従兄弟であることを告げる。アルスルは、寛大にも自分の最も重要な持ち物を除いて求めるものを取らせよう、と言う。
そこでキルッフは、巨人の長、イスバサデンの娘オルウェンを手に入れて欲しいと告げるのだ。
さっそく使者たちが放たれ、この乙女を探そうとする。だが、見つからない。
キルッフが、役にたたないアルスルの騎士たちを見限って、アルスルの名誉とともに宮廷を去ろうとしたとき、カイが進み出て、キルッフとともに、オルウェンを探しに行くことを申し出る。カイとともに立ったのは、アルスルの宮廷でも選りすぐりの騎士たち。
キルッフとともに旅立ったのはカイ、ベドウィル、キンデリック、グルヒル、グワルッフマイ(ガウェイン)、そしてメヌウの六人。
カイは、のちのアーサー王伝説でケイ卿と呼ばれている人物だが、ここではまだ若く、魔法の力も持っている。
彼は、九日九晩、水の下で息を保っていられ、眠らずに居ることも出来る。彼から受けた傷は、どんな医者にも癒すことが出来ない。また、機嫌のいい時には、森の一番高い木よりも背を伸ばすことが出来る。雨がひどいときでも、手のひらの上にあるものを乾かしておくことができた。そして、火種のない時に、手から火を提供することも出来たのである。
ベドウィルは、アルスルと、キヴダルの息子ドリッフを除いては、他に彼ほどの美男子はいないほどという男前。
カイの成そうとすることからは決して手を引かず、片腕であったにも関わらず、戦場での働きめざましく、その槍の一突きは並みの男の九突きに値する。
グルヒルは言葉の通訳者、鳥の言葉でも、人の言葉でも望みのままに操る男。
グワルッフマイはご存知ガウェイン卿、アルスルの甥で、探求の旅から手ぶらで帰ることのない者、最高の歩き手であり、最高の乗り手。
そしてメヌウは、異郷の地において、自分と人々の姿を消すことの出来る男であった。
旅立った七人は広い平原へとたどり着き、羊飼いカステンヒンと出会う。カステンヒンの妻は、キルッフの母の姉妹で、叔母だった。羊飼いは、巨人の長イスバサデンによって十二人の息子たちを殺され、最後のひとりを家にかくまっていた。その息子は、カイによって、一行に加わる八人目の男となる。
さて、羊飼いは巨人の砦から乙女オルウェンを呼び寄せ、キルッフとオルウェンを出会わせた。彼女は言う、父は決して自分を手放さないだろう。なぜなら彼は、オルウェンが夫と行ってしまうとき、命を失う宿命だからだ。
それを承知で、キルツフは巨人の砦へ向かい、イスバサデンに挑戦する。巨人は答えを先延ばしにし、帰ろうとするキルッフに毒槍を投げつけて殺そうとするが、逆に投げ返されて、大怪我を負うのだった。
やがて、毒槍ではキルッフを殺せないと知ったとき、巨人は話し合いの席を設けて言った。自分が出す要求のすべてを満たしたら、娘を嫁にやろう、と。
その要求とは、「婚礼の準備を自分でととのえること」と、いうものだ。
婚礼に必要なもてなし、食べ物、婚礼のために自分が髭をそり、髪を整えるための道具、花嫁を飾る衣装など…。
だが、古伝承のお約束として、それらの品はすべて、用意には手に入らない、魔法の品々である。
キルッフは、すべてに「私にとって、それはたやすいことです」と、答える。
そして、すべてを聞き終わったあとで、要求をひとつひとつ満たしてゆく旅が始まるのだ。
この要求には、メンツのかかっているアルスル王の宮廷の者たち以外にも、巨人の長に恨みを持つ者たちが協力した。何しろ、キルッフがすべての要求をかなえ、オルウェンが彼の妻になれば、巨人の長は命を失うのだから。
<具体的な探求の手順は、長いので省略>
そして、ついにすべての条件がそろう日がやって来た。
キルッフと仲間たちは再び巨人の砦へ向かう。
巨人は、彼自身の要求した髭剃りによって耳と頬の肉ごと髭をそり落とされ、娘をキルッフにやると言ったあと、死んでしまう。死んだ巨人の首は切り落とされ、砦の外壁の杭に掲げられた。巨人の持っていた領地は、あの、羊飼いの最後に生き残った息子が継いで、収めることになる。
キルッフは無事、オルウェンを妻とする。
ここで物語は終わる。