叙事詩というからには、カレワラだって誰かによって語り継がれていたモノのはずです。でも、一体誰が、どうやって…?
そこで、ちょっと調べてみたところ、意外にも、カレワラの原型となった古い伝承の歌唱方法はフィンランドの北と南で異なっていることが判明しました。
以下の対比表をご覧下さい。
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北部 |
南部 |
歌う人 |
壮年男性2人 |
若い女性 |
歌う形式 |
吟唱 |
コーラス形式 |
使う楽器 |
カンテレ、
ハープ |
なし |
地理条件 |
辺鄙な田舎 |
わりと都会 |
歴史背景 |
長閑 |
戦乱 |
…と、このように、明らかに違っているわけです。
この表からするに、南部は戦乱が多く、男性は戦いに明け暮れていたので歌なんか歌ってるヒマがなくて、代わりに女性が、女性的な情景を込めて歌っていたということになりそうです。
それに対し、平和で長閑な北部では、男性が農耕や狩猟の合間に男らしい叙事詩を創りあげていったと考えられます。
ちなみに、「叙事詩カレワラ」は、北部バージョンから始まっています。
最初のカレワラ紹介部分でも書いたとおり、「カレワラ」は各地に散逸していたものをリョンロット氏個人の手に因って収集・再編成されたものです。冒頭部分も、彼の好みによって書き換えられている、とのこと。
「さあ一緒に歌い始めよう、共に語ってゆこう。
我ら二つの方角よりやって来て、一緒に出会ったのだから!
まれにしか一緒に会えないし、我らは互いに相手を知った。」
カレワラの序章にあるこの部分は、「カレワラ」が2人の人間によって歌われることを表しており、北部バージョンが採用されていることの証明でもあります。
また、この続き、
「…かくも寂しい辺境で、貧しいポホヤの地で。」
と、いうのは、ずばりフィンランド北部のことを表していると言えます。
え? じゃあ、南部バージョンは「カレワラ」に入っていないのかって?
んーー…。入ってるはずなんですよね。
中には、乙女たちのコーラスと思われる部分も(結婚歌謡とか)入ってるんですが、残念ながら私には、「ここの部分は北部発祥、ここの部分は南部発祥」と言えるほどの知識はありません。
ただひとつ言えるのは、これらの物語は、吟遊詩人という特別な職業の人によって歌われたのではなく、そこらへんの農夫や女性たちといった一般人によって、娯楽として歌われていたものだということです。冬なんか、することないですからねー。ヒマつぶしに皆で吟遊大会とかしてたんじゃないでしょうか。
それこそ、日本の「句会」みたいな勢いで(笑)。
カレワラの物語の中から、そんなフィンランド人たちの長閑で静かな暮らし振りを感じ取れたら良いですね。