■フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA |
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ここまで、カレワラ9章における「天の神ウッコの天地創造」と、原詩におけるワイナミョイネンの天地創造を出しましたが、ここでは実際に新カレワラの序章にある「大気の処女 イルマタル」による大地の創造を自分解釈として解説します。
これもいちおう天地創造、ということになっているのですが、どうもこの言い方は正しくないようです。
何でかというと、彼女が登場したとき、すでにそこには空があり、海が存在していました。イルマタルは天と海との間をただよう大気の乙女です。ただし、大地があったという気配はありません。ただ、だだっ広い海。
「荒地」という表現が出てきますが、これは叙事詩特有の言い回しで、荒れた北の海を荒地とたとえる一種のケニングだ、とのこと。
海に落ちたイルマタルは、波によってワイナミョイネンを受胎します。このため、ワイナミョイネンは物語の中でも海を属性とする存在として描かれています。大気と海が合わさって生まれた存在…それが、「不滅の詩人」ワイナミョイネン。
しかし、彼はすぐには生まれてきませんでした。母であるイルマタルの母胎の中から出ることが出来ず、何百年も暮らすうちにジジイになってしまったのです。(だから生まれたときからジジイ。)
そこへ、鳥がやって来ます。
鳥(鴨)は、巣をつくることが出来る大地を探していたのですが、どうしてもその土地が見つかりません。そこで、イルマタルは膝をたて、そこに巣をつくらせてやることにしました。
けれど、鴨が巣をつくって卵を温めはじめると、膝の上が熱くなってきた。我慢しきれなくなった彼女は、つい膝を揺すってしまいます。卵は転げ落ちて割れてしまうのですが、割れた卵のカラは、上が天に、下が大地となって、さらに黄身から太陽が、白身から月が誕生したのでした。(神話学にいうところの「卵生モチーフ」。
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このようなタイプの神話は、内陸のウラル語族に多いといいますが、そういった比較神話はあまり興味が無いのでここでは言及しません。一つ確かに言えることは、イルマタルがワイナミョイネンを身ごもったその時、天と海とはすでに在り、どこか遠くに大地(鴨がもともと住んでいた場所)も存在していたということです。
だから、ここで生まれた天と地とは、「カレワラ」の世界、つまりカレワ人たちの住まう世界だけのものだと考えるべきでしょう。
氏族や血筋を大切にした北欧の人々にとっては、自分たちの暮らしている世界の外はあまり興味が無かったのかもしれません。「カレワラ」はいわゆる北欧神話とは系列が違いますが、神話の性格としては似ているところがあります。やはり、気候条件が同じだと、ある程度発想も似てくるのでしょう。
最後に、その後のイルマタルの所業とワイナミョイネンの誕生について語っておきます。
イルマタルは、生まれた大地を馴らし、岬や暗礁といった地形を作り出し、島を創造しました。そしてさらに、大地の形を整えて、卵のカラである天を支える柱を作ります。それでもワイナミョイネンは母親の胎内から出ることが出来なかったので、自分から外に出て、海に転がり落ち、泳ぎだします。(ここが、本来はワイナミョイネンの父・トゥリラスのものだった部分です。)
彼はつくられたばかりの島に上陸し、「カレワラ」の物語は、ここから始まります。
カレワラ世界に登場するカレワ人たちの暮らす大地がイルマタルによって創造されたものなのだとしたら、フィンランド神話にあける最初の大地母神はイルマタルになるのかもしれません。(大気の処女→海の母→大地母神。どんどん属性変わってるな…)
現在のフィンランド、スカンディナヴィア半島の一部とフィヨルドの複雑な地形は彼女の手になるものかもしれない、と考えると、フィンランド人たちの言う「母なるイルマタル」という表現も分かるような気がします。