フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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英雄クッレルボの冒険




 「カレワラ」の中では31章から36章に組み入れられているクッレルボの物語は、本来は独立した物語だったようです。
 フィンランドは地域的には北欧なのですが、ゲルマン民族ではありません。そのためか、あまり戦うことをせず、神話の中でも戦いに関する記述はほとんど出てきません。「カレワラ」からして、ジジイが主人公(笑)ですからね。戦う気ナッシングです。
 そんな中での英雄物語。しかも、始まりからして悲劇的な匂いを濃く持っている、少し特殊な物語です。

 主人公は一族を皆殺しにされた生き残りで、生まれた時から敵部族で奴隷として育てられており、唯一の一族の生き残りの母とは生き別れ。妹を妹と知らずに通じてしまい、目の前で自殺される。再会できた母のもとも、すぐに離れることになる…。

 むちゃくちゃ不幸です。「カレワラ」に登場する人々は、みなそれぞれに苦労はしていても明るくハイテンションなのに対し、クッレルボのエピソードはマジに突っ込みようのない、ドン暗な展開なのです。

 あまりのシリアスさに、つっこみストーリーの中でも、ちょっと浮いています^^;
 ギャグの一つも飛ばさないんだもん。

 フィンランドの北部はわりと平和な時代が長く、南部は戦いが多かったといいますから、これはおそらく南部の雰囲気で語られたものなのでしょう。
 と、考えると、クッレルボが単身で一族の仇を討つため敵陣に乗り込むのも、そのあと自刃して果てるというのも、フィンランド神話っぽくなくて当たり前なのかもしれません。
 どっちかっていうと、英雄叙事詩<サガ>に近い雰囲気のように思われます。

 ちなみに、「カレワラ」のストーリー解説のほうにも書いたとうり、クッレルボはもともと、荒っぽく、人間的な感情に乏しい英雄でした。
 彼に明確な喜怒哀楽の表情を与えたのはリョンロット氏であり、それ以前は、人を殺すにも眉一つ動かさないような冷たい人間だったようです。「カレワラ」内でも、イルマリネンの妻を殺害するシーンにその性格の名残が見られます。
 家族の死に涙することもなく、復讐のために戦場に向かう孤高の英雄、クッレルボの物語はもしかすると、実在した誰かを語ったものだったのかもしれません。

(それこそ、サガのように。)



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