![]() |
建物の前に戦車砲が置いてある |
---|
さて、この陸軍博物館、無料なのは良いとしても、内部は写真撮影が禁止されているので、中身の画像は有りません。前に紹介した帝国戦争博物館は写真撮影し放題だったので、同じような博物館でどうしてこのように取り扱いが異なるのかよく分からないが、帝国戦争博物館の方は飛行機やら戦車やらの比較的大物が沢山並んでいたが、こちらは弓矢や鉄砲、軍服や楽器等、身の回りの商品が多いという違いが有り、退役軍人にしてみれば重要なものだという意識が強いのかも知れない。
中身の展示は、1415年から現代までの英国陸軍の歴史を彩った様々な物品を陳列し、それに独断と偏見の解説板を付けてある。1415年というのは、百年戦争でイングランド王ヘンリー5世が、7倍近い数のフランス軍を相手に長弓隊で圧勝したアジャンクールの戦いが起こった年であり、英国陸軍はこの戦いを以て嚆矢とするのだろう。
結構凝った作りなっているのが「ウォータールーへの道」と題した展示コーナーで、大きな地図上の模型とアナウンスで時系列を追ってウォータールーの戦いへ至る過程が解説されていくが、よっぽどこの戦いに勝ったのが嬉しかったんだろうと思ってしまうほど、無邪気な展示である。確かに、この戦いで負けていたら、今頃英国はフランス領だったかも知れない。あと凄いのは、ナポレオンが乗っていた愛馬マレンゴの骨格の展示。ダヴィドの有名なアルプスを越えるナポレオンの絵でナポレオンが乗っている白い馬、あれがマレンゴです。
因みに、この展示を見てアナウンスを聞いていたところ、後ろで二人の係員が大声で無駄話をしていてあまり聞こえない。いい加減に腹が立って、聞こえないから静かにしろと言ったら嫌な顔された。何でやねん。
そして時代は下り、ビクトリア朝になってくると、ボーア戦争やズールー戦争というような話が出て来る。要はアフリカに進出して侵略していった訳ですね。そして、更に彼等はインドへと手を伸ばす。その解説には「インドへと英国の支配領域が広がった」とあっさりと書いてあるだけだ。一方、日本は東南アジアを「侵略」したときちんと書いてある。そしてここでも、ビルマ等での日本軍による俘虜収容所での英軍俘虜の虐待を蝋人形で分かり易く解説。攻めてったのは日本軍だけど、なんで英軍がビルマに居たんだよ、ってことはここでは問題にならないみたいだ。
引っ掛かるのはやはり、まるで当たり前のように英軍がインドとか東南アジアに居るってところだ。平和に暮らしていた英軍に日本軍が襲ってきて、善良な英軍俘虜にひどい仕打ちをしました、とかいうそんな単純な図式じゃないだろっての。ビルマやシンガポールにいた英軍軍人は、そもそもがそうした植民地出身でかなり贅沢な暮らしをしていたので、最初から根性が無かったという説も一部に有る(本田毅彦『インド植民地官僚』参照)。まそれは大した問題じゃないとしても、何でそんなにでかい顔して被害者面できるのか、その精神構造がよく分からない。それが戦勝国と敗戦国の違いか。同じように、オランダがインドネシアで日本に虐待されたとか言って抗議するってのも気持ちは分からんでもないが、もう少し遠慮ってもんがあってもいいんじゃないか。あんたらが400年間インドネシアをうろうろしてたのも一つの原因だろが。
閑話休題。展示はフォークランド紛争や湾岸戦争まで。今回のテロについてもそのうち何か加わるかも知れない。そう言えば、解説板によれば、フォークランド紛争はフォークランド諸島を「解放」するための軍事行動であったらしい。まあ確かに攻め込んだのはアルゼンチンの方だけど、フォークランド諸島の位置を地図で確認すると、どう見てもアルゼンチンの方に近いのだが、なんであれが英領なのかな。
などという疑念をこの博物館で差し挟んではいけないのです。ここは大英帝国陸軍がいかに偉大であったかを、何の疑いもなく手放しで賛嘆する為の博物館なのであるから。LSEの先生とあれこれ議論したところ分かったのは、英国民にとっては「大英帝国」は懐かしく振り返る対象であって、昔はそういうものがあったがそれも「過去のこと」という意識が大体のところのような気がする。戦争で負けたことがないため、敗戦というショックで自らを見つめ直す機会を未だ与えられていないということか。テレビの戦争関連番組を見ていると、過去を振り返る場合は大抵が、自らの栄光に浸るか、英軍が負けた何処かの戦いを取り上げて「こうすれば勝てた」みたいなお気楽なものが多いのも首肯される。
前に帝国戦争博物館でこうした無反省な博物館に対する感想は記したが、あっちよりもこっちの方が無反省度はずっと強い。とは言っても、ここは最前線の具体的な展示が中心だから大英帝国全体の大きな文脈というのは分からないし、 まあこうした施設には退役軍人さんがかなり力を入れてるようだから、そうした人々の意向が強く働いているんだろうということを差し引くとしても、こうした一方的で何の反省も慎みも平和への祈念もない展示を見せつけられると、日本の施設と足して2で割りたい気がする。
場所 Royal Hospital Road, London, SW3 4HT South Kensington
値段 £0.00
電話 020 7730 0717