上海情報−生活全般関係

上海市トップが汚職で免職


陳良宇
Chen Liang Yu
 以前、このコーナーでも登場した上海市の陳良宇書記が、何と免職に!のニュースは日本でもそこそこ報道されていたようだ。前にとある新聞が彼のことを上海市の前市長と書いていたという点を紹介したが、流石に今回は各紙とも「上海市トップ」等の表現を使っていたので、「書記」がどれぐらい偉いのかは理解されたのではないかと思う。

 今回の免職、解任については政治闘争だの反腐敗闘争だの本当のターゲットは江沢民だのと色々な揣摩憶測の類が巷に溢れているが、どれが正しいのか今のところ判然としないし、この段階では考察していくことも困難なので深くは触れない。こうした一連の動きを見ていて、かなり違和感を覚えることが2点あった。

 1点目は、そもそも何をやったのかがよく分からない、ということである。一連の報道では、▽上海市労働・社会保障局の社会保障準備金を不正に使用▽一部の違法企業に利益を図る▽紀律・法律に著しく違反した周辺の人間をかばう▽職務上の権限を利用して親族に不当な利益をもたらす、という罪状が記されているが、これ以上の内容はどこにも書かれていない。「不正に使用」とは具体的にどう使用したのか?「一部の違法企業」とは何か?「利益」とは何か?「周辺の人間」とは誰か?「親族」とは誰か?この点が全く分からないまま、解任、免職だ!というのは、何だかすっきりしないものを感じる。

 2点目は、よく分からないにしても、取り敢えず汚職をしただろうということは分かっているのにも関わらず、彼は免職され解任されただけで、警察当局に逮捕されたわけでも訴追されたわけでもない、という点である。今回の件は、中国共産党の組織である紀律検査委員会が動いており、そこが身柄を拘束している。確かに、中華人民共和国は中国共産党が指導する国家であり、政府機関より党機関の方が上位にあること等を考えれば、より厳しい措置なのは理解できないわけではないが、党と国家が違うように見えて、やっぱり同じというのは分かりにくい。こういう時にふと立ち止まって考えてしまうのは、まだこの国の仕組みに慣れていない証左か。

 本件を受けよく聞かれるのは「この程度の「汚職」は党の幹部であれば誰でもやってること」という言い方だ。確かにそうなのかも知れない。しかし他方では汚職をしているのであれば糾弾されても文句は言えない、ということでもある。この国は一事が万事、そういう仕組みになっている。つまり、普段は悪事には目を瞑ってもらっていても、何かあれば態度を豹変させて取り締まりにくることだってあり得るということであり、そこに当局の強い裁量の余地がある、ということである。

 経済の面でもこれは同じ。衛生基準にしても何にしても、とにかく基準がもの凄く厳しいのである(例えば、コンビニでは店内に蠅が飛んでいてはいけないらしい)。だからこうした基準を守れている所は殆どない。しかし当局もそれらを全て検査して取り締まっているかというとそういうわけでもない。しかし何かの拍子で、別件でも何でも当局の機嫌を損ねてしまうと、原点に立ち返って「お前のところは法令に違反している」と言ってくるわけだ。勿論、法令に違反していること自体はその通りなので、反論もしようもない。今まで何も言ってこなかったくせに、と言うと当局は「規範化」だと答えるだろう。つまり、より厳密に法令に基づき行政を執行するのだ、これは良いことだ、とこれまた反論できない理屈を持ち出してくるのである。

 となると、いつ・どこにガサ入れするかは当局の全くの裁量に任されているのであるから、各企業は当局との関係を良好に保つために、様々な努力を強いられることになる。ここによく言われる「関係」「人脈」という中国的ビジネスの慣行(or悪慣行)が存在意義を失わない理由がある。



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