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春節


 中国人は、新暦の1月1日よりも、旧暦の1月1日の方を「新年」として祝う風習がもの凄く強い。この旧暦の新年を「春節」と呼び、今年は1月29日がこの春節に当たる。春節には、中国国内だけでなく世界中の華人コミュニティで大掛かりなイベントが行われる。私もロンドンにいた頃に中華街(レスタースクエア周辺)の春節(Chinese New Year)のイベントを見に行ったことがあるが、ストリートでの獅子舞(画像)や広場の特設ステージでの歌や踊り等、かなり騒々しかった記憶がある(それにしても英国人は何故に中国人がニューイヤーと言ってるのか理解していたのだろうか?)逆に、新暦の元日は一応は祝日になっているものの、2日からは普通に仕事だし、学校も冬休みではない。春節を過ぎるまでは、中国人もつい「来年は〜」と口走っている。もう今年だろ。

 だったら何のための新暦なんだよ、という突っ込みを入れまくりたくなるわけだが、旧暦は「農歴」とも呼ばれており、農作業的には旧暦が結構便利らしい。春節を過ぎると確かに少し暖かくなったような気がしないでもないので、一応の説得力はあるが、イスラム歴のように本当にその暦を使ってるならともかく、普段は全て新暦を使っているというのに、習慣というのは恐ろしいものだ。中国のカレンダーも流石に全て新暦で作られているが、小さな字で必ずと言っていいほど旧暦の日付も書いてある。

Chinese New Year in London
 で、春節をどう祝うかというと「帰省」である。春節から1週間の連続休暇になる(国慶節のを参照)。この休みを利用して多くの人は実家に帰省するのである。勿論、帰省しないで旅行に出掛ける人々も多いが、いずれにしても民族大移動になるわけで、春節の暫く前からは新聞もテレビニュースも「春運」と題して、やれ電車の切符がどれぐらい売れただの、混雑のピークはいつになるだのと延々と報道し続ける。更には、大陸と台湾の間にも帰省のためのチャーター便が運航されるが、この便数も年々増加している。地方に行くと、更に旧暦の1月15日まで春節気分が抜けず、仕事をしないらしい。

 そして彼らは手ぶらでは帰れず、「面子」のため、親戚等に配る大量のお土産を買って帰らねばならない。また、春節期間中の食料を買い溜めする必要もあり、スーパーやデパートはラッシュアワー並に混雑しており、とても大きなトロリーで買い物が出来る状況ではなくなる。店は外装からして春節モード全開になっており(画像)、店員も春節風の赤い制服を着てレジを売っている。そして店内では春節飾り等の春節グッズを大々的に売り出すが、その中でも春節用の赤い下着まで売られていたのは流石に驚いた。中国では赤色(中文では「紅色」)は非常に縁起の良い色とされており、春節グッズはほぼ全て赤色で作られている。下着はともかく、提灯や中国結びを家に飾り付けて新年を迎えるのである。

仏系スーパーのカルフール提灯の下がる百聯スーパー
 旧暦の大晦日の過ごし方として近年のムーヴメントとなってきているのが「年夜飯」である。これは大晦日の夜に年越しのご馳走を喰いまくるという風習である。まあ日本の年越し蕎麦を豪勢にしたものぐらいのイメージだが、特に最近では高級レストランの用意する年夜飯が豪華になりすぎてきており、200万円を超える年夜飯も登場している。金持ちもそれなりに多いので需要はあるのだろうが、それにしても大したものである。勿論、家庭で年夜飯を食べる人々も多い。

 いよいよ年越しの時間が近づいてくると、花火と爆竹である。日本の感覚では個人のレベルを超えたどこかの花火大会レベルの打ち上げ花火が街中で普通に売られており、個人が購入してその辺からばんばん打ち上げるわけである。夕方ぐらいからどんぱち上がり始め、爆竹も轟音を撒き散らしながら各地で火を噴いている。空気が煙たくなるぐらい、ぐるり360度の花火と爆竹の騒ぎだ。これは神様を迎えるためということらしいが、単に日頃の憂さ晴らしにやってるのではないかと思えなくもない。

爆竹の残骸
 更に、年越しと言えばカウントダウンだろ、と言うわけで、上海随一の観光地の外灘(バンド)にのこのこと出掛けて年越し風景を見物してみた。川沿いのデッキには人が溢れかえっていたが、その溢れかえった人混みの中で皆が思い思いに花火と爆竹をどんどんやり出すものだから危険極まりない状態である。23時59分になり、オーロラビジョンに10、9、8、7とでも出れば盛り上がるのだろうが、そんなものはなく、そもそも外灘のライトアップも消えているという何とも非協力的(?)な中、何となくもう新年になったんじゃないの?的な雰囲気が広がると、ここから花火と爆竹の本番である。火の粉が振ってくる中を何とか外灘から脱出したが、市内に入っても空気は火薬臭いし、空は花火で明るくなっている。ここは空爆されてるバグダッドかい、という状況になっていた。因みに、旧暦の1月5日には金儲けの神様がやってくる、ということになっていて、1月1日よりも更に花火と爆竹が激しく鳴り響いていたのである。花火と爆竹については、ウェブ上に動画があったので興味のある方はこれ(10.9 MB)これ (7.6 MB)をどうぞ。

豫園の混雑
 新年が明けると、上海市民は豫園に繰り出す。豫園は東京で言えば浅草のようなところで豫園という庭園とその周辺の仲見世のような商店街からなるスポットである。市街地は普通は人が帰省してがらんとしているものだが、豫園だけは逆に異様な混雑で動けないぐらいとなる。様々な春節の催し(画像)も行われ、あちこちに春節の飾り付けが行われている。何しに来ているのかはよく分からないが、とにかく春節と言えば上海人は豫園に行くものと相場が決まっているらしい。

 と斯くもまあ春節というのは中国人にとって一大イベントなのである。極端な話では、家族と一緒に過ごすため、囚人も春節期間中には家に帰れるらしい。勿論、一部の限られた囚人なんでしょうが、そこまでやるか、という気がする。老若男女を問わず、全ての中国人が春節を祝い、或いは祝うとまでは行かずとも春節を意識した振る舞いをするという状況で、日本の年末年始の比ではないエネルギーを見せつけられると、その一体感の強さを羨ましくも思ったりしてしまう程なのであった。


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