雑感書評

今まで読んだ本 その1




『論語 知の遺産 心の妙薬』 野末陳平


青春出版社
 そもそも野末陳平といえば税金というイメージしかなかったので、意外性からつい買ってしまったもの。内容はあまり学問的なものではなくて、摘み食いするように、ぱらぱら読んでも何とかなる。内容も文体も構成も、いかにもサラリーマンが移動中の新幹線の中で読む本、という感じ。(6/29)


『あの人は十代二十代の時何をしていたか』 神 一行


角川文庫
 行間が広く空いているせいか素早く読める。色んな人の若い頃の面白エピソードがあれこれ詰まっていて面白い。例えば、スガシカオは2浪している最中に、女性に二股かけられてボロボロだった、とか。横山やすしには好意的。
 それにしても、登場する人々の人選の基準が全く分からない。それと、この本は神一行の今までの本とは題材も趣もかなり違うが、何かあったのか?(6/26)


『動機』 横山秀夫


文春文庫
 読後感が「ずーん」と重い。特に「逆転の夏」。いや別に自分もやりそうだってわけではないけど。前2つの短編集は警察の管理部門が舞台だったが、今回はそれだけでなく、犯罪者、事件記者、裁判官と主人公の幅が広がっている。これが次の『半落ち』に繋がっていくわけですね。それにしても、横山秀夫は、こういう陰のある人間の心の動きを書かせたら並ぶものがないぐらい上手い。
 どうでもいいが、横山作品は発表された途端にドラマになってしまう。文庫化されるのを待ってる場合じゃないということか。(6/25)


『ネット起業!あのバカにやらせてみよう』 岡本呻也


文藝春秋
 知ってる人々が何人か取り上げられているので読んでみた。特に、サイバードの真田副社長は、ただ者ではないと思っていたが、ここまで尋常ならざる人だったとは。その他、堀主知ロバート(永井美奈子の旦那)等、ベンチャーを起業しなくては生きていけないような人々がわんさか出てくる。そういう人々は、大企業で働くことを総じて悪し様に言うのだが、世の中ベンチャー企業だけで成り立つわけでもあるまいに。
 でも、この本は結構面白い。昔、銀玉親方の山崎一夫は「会社はニキビより簡単に潰れる」という名言を残したが、本書でも、ばしばし会社が潰れていく。そういう意味では、著者は単にベンチャーを薦めているのではなく、その危険さも併せて強調したいんだろうなと思われる。(6/24)


『国際政治とは何か』 中西 寛


中公新書
 国民国家の枠組みは今後も維持されるという現実的で保守的な思想に貫かれており、国民国家の枠組みを越えた「地球市民」的なお気楽な考え方に対しては徹底的に懐疑的な本。とはいえ、「国際貢献」と言いながら、在留邦人の安否にしか気を遣わない日本政府に対しても批判的だし鋭い。
 それにしても新書とは思えないほどに内容の詰まった専門書級の本。あとがきを読んだら、書くのに10年掛かったと書いてある。因みに、アングロ・サクソンの欺瞞的な態度が気に入らない方々は、序章だけでも読んでみることをお奨めします。(6/23)


『黒猫館の殺人』 綾辻行人


講談社文庫
 綾辻の「館」シリーズの第6作。スケールは大きいんだか、小さいんだかよく分からない作品。安直な設定&展開もあるし、「手記」の部分とはいえ、記述が多少フェアではないような部分も…。とは言っても、面白くないかっつうと、そんなことはないし、どうせ前5作を読んだ人が、この本を飛ばすということもないでしょう。(6/21)

 確かに、黒猫館が実はタスマニアに在ったという点については、やられた感が無いわけではない。でも、タスマニアに在るにしては「手記」の記述が不自然すぎる気がする。例えば、タスマニアに行くってのに、「東京を発って」とか「東京を離れてみると」などと言うだろうか。普通は「日本を発って」と言う筈だと思うのだが。


『ドイツ 町から町へ』 池内 紀


中公新書
 讀賣新聞日曜版の連載をまとめたもの。新聞連載なので1つの町に対する分量が同じ。大きな町も小さな町も同じ。ベルリン、ミュンヘン、フランクフルトも小さな田舎町も同じ。そこんところに何だか著者の思いを感じられるような気がする。但し、それ故に実際の旅行ガイドブックとして使うのにはあんまり向いてない。(6/19)


『国語入試問題必勝法』 清水義範


講談社文庫
 今更の感があるが、きちんと読んでなかったので再度読み直した。「国語入試問題必勝法」は、有坂誠人の「例の方法」の元祖みたいなもの。オチはややいただけないが。
 本書は短編集になっていて、私としての白眉は「靄の中の終章」。痴呆老人の思考パターンは案外そんなものかも知れない。(6/18)


『クジラと日本人』 大隅清治


岩波新書
 前半は鯨漁の歴史。特に米国は鯨油にしか興味がなく、日本人は鯨の全てを有効利用するというところが、そもそもの双方の鯨感の違いになっているという説明が新鮮。
 後半はIWCにおける日本の立場の説明。IWCは今が最悪だと思っていたが、どちらかというと捕鯨国が盛り返している状況らしい。どのみち、捕鯨もしねえのにIWCに入るなという気がするが。で、アングロ・サクソン諸国の訳の分からぬ反捕鯨の理屈をいちいち反論していて応援したくなる。もう少し国際会議での駆け引きなんかを書いて欲しかったが。(6/18)


『政治改革 1800日の真実』 佐々木毅編


講談社
 編者の佐々木毅は現在東京大学法学部教授にして同大総長であり、プラトン等の政治思想が専門、の筈だが近年日本政治に対して積極的に関与(民間政治臨調等)し続けている活動的な政治学者である。
 先ず、この「1800日」とは大凡リクルート事件が発覚した昭和63年夏から、細川内閣で政治改革関連法案が成立した平成6年の1月あたりまでを指しているものと思う。で大雑把に纏めてしまえば、この間に様々なアクターが様々な思惑で「政治改革」の場に登場し、そこで如何なる事が議論され、実行され、或いは葬られていったか、本書はその一大記録であると言える。章によっては、時系列的に各内閣毎に見ていったり、又別の章では、アクター別に(自民党執行部、野党、連合、マスメディア等)考察したりと、縦横無尽に政治改革の解析に取り組んでいる550頁を超える大著である。実際、読むのに疲れた。
 しかし、本書のお陰様で、この1800日間の、アドホックに日々の報道を見ているだけでは掴みきれなかった、改革のうねりというものが見える。私が興味深く読んだのは、マスメディアの章である。1800日間の新聞の論調の推移を具に検討しており、それによると政治改革にあくまで理想論を吐く朝日、立場は朝日寄りだがそれほど強烈でもない毎日、そして現実路線で妥協してでも改革を成し遂げよとする讀賣、という立場が鮮明になる。又、論旨の推移を見ると、各紙とも当初は政治改革よりも疑惑解明を強く求めており、その後も選挙制度改革は政治改革の誤魔化しであるだの何だのと言っている。これがいつの間にやら、選挙制度改革を進めよという論調になるのだから、あら不思議。
 佐々木によれば、55年体制は自民党のみならず野党にとっても非常に居心地の良い制度であった。そしてその凭れ合いを生み出しているものこそ中選挙区制度であり、それを改革の俎上に乗せることはルビコンを渡るに等しいのである。この点で、政治改革は選挙制度改革に「矮小化」されたなどという議論は、これを無視したそれこそ「矮小な」議論であると断じている。このあたりは実に小気味良い。
 にしても、今回は何だか硬くなってしまった。兎に角も、政治改革に興味の有る人はどうぞ御一読を。


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