大学の構内で落ち着く場所と言っても、そんなに多くない。
オレも、他の下宿生と同じく、1限でも休講になれば、自分の部屋へ帰る人間だ。だから、こうやって余ってしまった20分とか30分という時間を過ごす場所はなかなか見つからない。
ゼミ室は、居心地は悪くないけど、人を構いたがる先輩や同輩が多くて、落ち着かない。
図書館は、静か過ぎて落ち着かない。
サークルに入ってないので、サークル棟は未知の世界すぎて行く気がしない。
そうなると、一人悲しく生協の本屋で立ち読みをして過ごすか、優等生ぶって、空き教室を使って勉学に励むか、そんなことぐらいしかできない。
しかし、今現在読みたい雑誌もないし、勉強する気にもなれなかった。
校舎と校舎の間は、中庭のようになっている。
噴水があって、木が植えてあって、少し遅めの昼食をとっている学生がベンチに座っていた。
空を見上げると雲が多く、あまり暑くなりそうもなさそうだ。
そう考えて、オレはそのうちの一つに座る。
こんなところで、相席をする奴なんていないと思うけど、鞄を横において、一応の保険をかける。誰かの相手をして気を使うなどということはやってられない。
今、そんな余裕はない。
原因は、はっきりしている。
1人の少女だ。
この歳まで付き合った女の子がいなかったわけではない。高校、大学といなかった時期の方が少ないくらいなのに。
自分で信じられないくらい、ハマっている。
この少女が、せめて大学生、いやこの際高校生でも構わない、そのくらい歳が離れていなかったら。
今ごろ、自分は、告白などというものをして、ラブラブな恋人生活を送っていたのに、と思う。
よりにもよって。
大学生じゃなくて、高校生でもなく、さらに、中学生でもなくて、小学生だという事実。
小学6年生の少女に真面目に告白など、面子にかけてもできない。
ロリコンでない、ということは分かりきっていたし、いくら美少女だとはいえ、9つも下の少女に恋心を抱くなどということはありえない、と理性でも思っていたりした。
彼女に対する気持ちは、妹に対するものと同じだと考えもした。
自分に懐いてくるペットに対する、愛情かもしれない、と思ったこともある。
だけど、どこかで否定する自分がいることも知っている。
認めてしまえば楽かもしれない。
けれども、認められない。
「……まったく」
一息つきたくて、右ポケットから煙草をとりだした。火をつけるために、ライターを探す。
ポケットを弄るが、見つからない。
鞄の中もかき回して捜したが、見つからなかった。
「畜生」
口に含んだ煙草をその場に捨てたくなるが、煙草だって最近高いのだから捨てるわけにはいかない。煙草のケースの中に戻すと、鞄を枕にその場にごろん、と寝転がった。
そういえば、と思う。
煙草に関することで少女がとやかく言ったことはない。
少女と出会う前に付き合っていた彼女は、煙草を吸っている姿を見かけるたび、よく怒ったものだ。別れのきっかけも、煙草だったような気がする。
しかし、少女は何も言わない。
小6の時、オレは煙草を吸う奴は悪だ、と思っていたのに。
少女はどういう気持ちで煙草を吸う俺を見ているのだろう。
(うわ、泥沼)
認めてしまえばいい。
そうすれば、楽になるから。
何かを考え始めると、最終的に少女に行き着く。
それは恋愛の末期だということを知っている。
今までの経験上、分かっている。
けど。
だけれども。
認めたくない。
認められない。
悪あがきなのかもしれない。
ただの馬鹿なのかもしれない。
1年後、「あの時は若かったなぁ」などと、今の自分を笑っているかもしれない。
でも、今の自分は、こうするしかなくて。
雲の切れ目から太陽が覗く。
日の光は、木々の葉っぱにさえぎられ、オレの上に優しく降りそそぐ。
優しい光は、それでも眩しくて。
オレは、身体を横に向けた。
いつか、木漏れ日の下で。
優しい光をきちんと受け止められたのなら、自分に正直になれるかもしれない。
そう、思った。
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