2020/03/22 新型コロナ感染症と考える力(その3)
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⇒先日(3/15)の記事では次のような予測を立て、“この予測が外れ、下方修正されることを期待している”と締めくくった。
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全国の 向こう1週間患者数推移予測 |
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患者数は7-8日で2倍のペースで増大中 |
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3月10日の患者数は492人なので |
18日には1,000人を超えていると予測される。 |
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これと同じ手法で、大阪府の患者数を予測したグラフは公開しなかった。
いや、そもそも作成しなかった。
作成しなかったことには理由がある。理由は追って述べる。
しかし、どうやらそれを見せられて慌てた知事がいたようである。それが吉村・大阪府知事であり、見せたのは国(厚労省)だと言う。
この問題の根っこにあるものを考えることが、今後のコロナ感染症対策にとって緊要の課題であろう。
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もくじ |
- 大阪府の 向こう2週間患者数推移予測
- 厚労省の不可解な行動
- データの振る舞いに適した関数で近似すると・・・
- 批判的思考と考える力
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全国予測と同じ手法で、大阪府の患者数を予測したのが次のグラフである。
横軸が月日で縦軸が患者数である。患者数は2月29日から3月18日までの約3週間の実測値を使っている。増加の様子を指数関数 で近似して、4月3日までの予測値をグラフに示した。4月3日には2,500人を超えている。
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大阪府の 向こう2週間患者数推移予測 (信頼性が低い) |
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患者数は4日で2倍のペースで増大中 |
信頼性が低い |
3月18日の患者数は102人なので |
4月3日には2,500人を超えていると予測される。 |
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2,500の患者を収容できる感染症病床を大阪府が4月3日までに準備できないと判断し、医療崩壊を恐れた知事が、兵庫県境を封鎖することを決めたようである。
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報道によれば、厚労省職員と専門家が大阪府を訪れて、4月3日には3,374人の感染者になるとの予測値を示し、緊急対策を提案したという。
不可解なのは、データの信頼性判断である。
大阪府で初めて患者が出たのが1月29日。
その後しばらく動きがなかったが、1か月後の2月26日に2人、翌日にも2人と患者が確認さた。その後断続的に患者が発生し、一日に10人を超える日も稀に見られるようになった。その様子を次に示す。
素人目にはピークが3月の10日前後にあり、直近数日は少なくなっていると見て取れる。うまくいけばこのまま減少局面に入ると言われても納得するような振る舞いである。
しかしこれを指数近似すると先に示したグラフ のようになってしまう。
こうした統計のトリックはどこから生まれたのだろうか? いくつかの可能性と問題点が考えられる。
- データの振る舞いに関わらず、指数近似を機械的に当てはめた
- 感染症の拡大期には指数関数的に患者が倍増することが知られている
- その知見をそのまま当てはめたのかもしれない
- 直近1週間の振る舞いを無視した
- 3月10日ごろまでであれば、指数的に増大している様子が見受けられる
- もしかしたら直近の推移は使わなかったのかもしれない
- わずか100件ほどしかないデータを無理やり統計処理した
- 統計の信頼度は、計測精度と計測数に依存する
- PCR検査の精度は高くないとされている
- 信頼できる計測数は千以上とされている
- 2週間ほどの計測データで2週間も先の予測を信頼した
- 患者が頻繁に出始めたのは3月2日からで、計測期間は2週間ほど
- 予測は4月3日までの2週間ほど
- 2週間先までの予測の信頼度(信頼係数)が必要となる
たとえばデータを指数近似以外でおこなった別の統計例を次に紹介する。
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よく使われるエクセル(マイクロソフト)の近似には、指数のほかに線形、対数、多項式、累乗、移動がある。これらのうちもっとも近似がよかったのが多項式(3次)であった。それを以下に示す。
最初は急速に増加していたが直近で減少している様子がうまく近似されている。近似曲線は3月28日にはほぼゼロにまで落ち込んでいる。
統計的信頼性を示すR2乗値で比べると次のようになっている。
- 指数近似 0.9157
- 多項式近似 0.9963
ただし、感染症の開始・増大・収束の過程を近似する関数がどのようなものかは別にして、機械的に多項式近したものであるので、そのまま鵜呑みにすることはできない。
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誰かの主張や数字をそのまま鵜呑みにしない「考える力」を養うには次の3つのことが必要である。
- 考える対象についてのデータ(情報)・・・どんな対象か?
- 考えるために必要な方法論(理論)・・・どんな風に考えるか?
- 考えようとする心(動機)・・・何のために考えるか?
感染症を恐れ、迅速に対処しようと熱意を持っている相手に、判断材料を公開せずに数字だけを示して相手を動かそうとすることがあってはならない。
今回の大阪府と政府をめぐる出来事から学ぶところは大きい。
「知らしむべからず、由らしむべし」(論語)の姿勢は混乱の元でしかない。
英知と熱意を生かすには情報公開が欠かせない。
学習指導要領で「考える力」を養うことを学校教育に求める文科省には、厚労省も指導して欲しい。
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2020.03.22 田淵龍二 TABUCHI, Ryuji
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