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2020/03/15 新型コロナ感染症と考える力


近年の教育現場でよく語られる言葉に「批判的思考 クリティカルシンキング」あるいは「論理的思考 ロジカルシンキング」がある。

これは、他者の意見や主張を鵜呑みにするのではなく、論理的・合理的に考える力を身に着けさせようと言う教育方針に基づいている。

それまでは主に大学以上で語られていた指導方針であったが、近年になり高等学校の教育目標に加えられたことが大きく影響しているようだ。

語学系の学会でもしばしば取り上げられ始めている指導方針でもあることから、現在最も大きな社会問題である感染症に焦点をあてて、考える力の応用問題としてみた。

政府も英語版の文書をようやく整備し始めたことから、語学授業での利用可能性が高くなると思われる。




お急ぎの方は ⇒情報収集から始めよう!からお読みください。

もくじ
  1. 新型コロナウィルス感染症の現状認識
  2. 北海道で実施すべき対策
  3. 考える力を養うために
  4. 情報収集から始めよう!
  5. データを解析してみよう!
  6. 改めて専門家会議の見解を見てみよう
  7. 予測
  8. 謝辞

..[↓] 1
 1 新型コロナウィルス感染症の現状認識もどる
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昨年暮れから始まった新型コロナウィルスによる感染症が全世界に広まり、WHOから緊急事態であるとの声明が出されるまでにいたった。

そうした中、日本政府が設置した新型コロナウィルス感染症対策専門家会議は3月9日に見解を発表した。そこでは、国内の状況について「一定程度持ちこたえている」と述べた。その部分を以下に引用する。

━━━━━━━ 引用開始
  • 2月24日に公表した専門家会議の見解において、我々は、「これから1−2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります」と述べましたが、以上の状況を踏まえると、本日時点での日本の状況は、爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえているのではないかと考えます。
━━━━━━━ 引用終了
引用元: ⇒https://www.mhlw.go.jp/.../000606000.pdf

しかし残念なことに、「爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえている」と判断した根拠については不明である。

根拠が示されなければ、鵜呑みにするしかない。「知らしむべからず、由らしむべし」(論語)の故事名句を思い浮かべた人も多いのではないだろうか。
..[↑][↓] 2
 2 北海道で実施すべき対策もどる
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この見解の2週間ほど前に発表した見解では判断のひとつの根拠を示していたので、それを見てみよう。

専門家会議の見解を理解してもらうために具体的な図を示して説明していて、わかりやすくなっている。

━━━━━━━ 引用開始
  • 4.北海道で実施すべき対策
  •  
  • 感染を急速に収束の方向に向かわせるためには、人と人との接触を最大限に避けることが必須です。これを、いま集中して実施すべきです。
  •  
  • もし、こうした対策が行われず、人々が何も行動を変化させない場合、感染者数が急増し(赤い上昇線)、一定の潜伏期間後に発症者数も急増することが予想されます(青い上昇線)。その一部の方々は、重症化する可能性があります。こうした事態に至ると、多くの人々に健康被害をもたらすほか、医療提供体制に甚大な悪影響を及ぼす事態を招きます。
  •  
  • しかし、現時点で、人々が急速な感染拡大を抑制するために適切な行動へ切り替えれば、新規の感染者数は急速に減少していくと見込まれます(赤い点線)。これがうまくいけば、今後、患者数が急激に増えることはありません(青い点線)。ただし、潜伏期間があるため、患者数の減少が確認できるまでにはタイムラグがありますので、人々の行動が大きく変わってから2週間ほど経過しないと、その効果を評価することはできません。

━━━━━━━ 引用終了
引用元: ⇒https://www.mhlw.go.jp/.../newpage_00011.html

実線のようになって被害が爆発してしまわないために、協力して行動すれば点線のように被害が抑えられることがわかる。

もちろんこの図の縦軸には「患者数」の項目名と等間隔の「目盛り」があるだけで、肝心の数字が入ってない。このことはしっかりと見ておこう。

横軸の方には「(日)」の項目名と等間隔の「目盛り」があるだけだが、横軸の備考として「10日」の数値と目盛り10個分を示す「矢印」があることから、赤線の立ち上がりから「緊急事態宣言」までの日数が約20日、その後減少過程(点線)に転じて、ほぼ平坦になるまでが約20日と読み取ることができる。

つまり専門家会議は、発生から収束まで約40日と読んでいることがわかる。

もちろん、明記されてないことを推測しているので違うかもしれない。
..[↑][↓] 3
 3 考える力を養うためにもどる
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考える力を養うために必要なことは3つあるようだ。
  1. 考える対象についてのデータ(情報)・・・どんな対象か?
  2. 考えるために必要な方法論(理論)・・・どんな風に考えるか?
  3. 考えようとする心(動機)・・・何のために考えるか?

この3つの原点に立って、専門家会議の見解(爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえている)を振り返ってみる。

  1. 【データ】 日本での感染状況(感染者数、患者数の推移など)は示されていない
  2. 【理論】 感染症の発生から収束までのどの位置にいるのかを判定する方法が示されていない
  3. 【目的】 「社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大の効果を最大限にする」(上記3月9日見解より)

政府の方針は明示されているが、肝心のデータと理論が示されていないことがわかった。特に、グラフの目盛りに現実の数値が欠けていることは、見解の説得力を著しく低めているとしか思われないだろう。
..[↑][↓] 4
 4 情報収集から始めよう!もどる
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日々のニュースやワイドショーで大きく取り扱われている割には、厚生省や保健所からのデータは公開されていないようだ。

いろいろ探してみて、やっとひとつ見つけたサイトとデータを紹介する。

サイト名: 新型コロナウイルス 国内感染の状況
アドレス: ⇒https://toyokeizai.net/.../covid19/
運営者: 東洋経済



上記サイトの情報を元に作成した図表を以下に示す。

日本における患者数の推移

縦軸は患者数. 横軸は国内最初の患者が見つかってからの日数

国内最初の患者が見つかったのは1月15日のことで、それから58日(2か月)を通して患者が増大している様子が見て取れる。2月13日からは連日見つかりはじめている。

下の表では、日ごとの患者数と累積患者数、および主な出来事を示した。

 日毎患者数  累積患者数 
1月 15日 1 1
16日 0 1
17日 0 1
18日 0 1 屋形船の新年会で集団感染
19日 0 1
20日 0 1
21日 0 1
22日 0 1
23日 0 1 武漢封鎖(公共交通運行停止)開始
24日 1 2 中国春節(訪日中国人80万人超えとも)
25日 1 3
26日 1 4
27日 0 4
28日 3 7
29日 1 8
30日 3 11
31日 1 12
2月 1日 0 12 このころからマスク不足が報じられ始める
2日 0 12
3日 0 12
4日 2 14
5日 2 16
6日 0 16
7日 0 16
8日 0 16
9日 0 16
10日 0 16
11日 1 17
12日 0 17 マスク毎週1億枚供給の見通しと政府発表
13日 4 21
14日 9 30
15日 4 34 大阪京橋ライブハウスで集団感染
16日 4 38 このころからスポーツジムでの集団感染
17日 6 44
18日 8 52
19日 8 60
20日 9 69 クルーズ客下船開始(初日443人)
21日 13 82 クルーズ客から初の死亡者2名
22日 24 106
23日 11 117 クルーズ客下船後に陽性
24日 11 128 専門家会議: ここ1〜2週間が瀬戸際
25日 16 144
26日 12 156
27日 24 180 安倍首相が全国小中高の休校を要請
28日 18 198
29日 8 206
3月 1日 15 221
2日 9 230
3日 17 247
4日 30 277
5日 25 302 中韓からの入国制限措置発表
6日 53 355
7日 42 397
8日 30 427
9日 19 446 株暴落
10日 46 492 安倍首相がイベント自粛延長を要請
11日 49 541
12日 49 590


国内で最初の患者が見つかったのが1月15日のこと。

その後しばらく進退を繰り返した後、2月11日以降は毎日患者が見つかるようになり、2月22日に100人を超え、3月12日現在で患者数は590人に達している。
..[↑][↓] 5
 5 データを解析してみよう!もどる
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データが見つかったので、いよいよ解析を始める。

統計的解析の精度は、データの質と量で決まる。質については政府発表と言うことで、一定の信頼性(不信感も含めて)がある。

量については多いほどよく、少ないほど不安定になる。そこで、感染者が100人を超えてからのデータを解析することにした。

日ごとの感染者累積データを折れ線グラフにして、近似曲線を探す。

道具としてはもっとも一般的なエクセル(マイクロソフト)を使った。

結果は以下の通りで、指数曲線での近似がもっとも精度がよかった。


赤い折れ線が日ごとの患者累積数を示し、黒のラインが指数関数による近似曲線である。 が近似式であり、R2=0.9952 が近似の精度を示す。精度が高いほどこの数値は1に近付く。0.9以上なので極めて正確に近似できていることがわかる。

さて、この近似式 をわかりやすくするために、指数の底を2に変換する。底を2にすることで、何日で倍になるのかが分かるのである。底の変換はエクセルの関数機能が利用できる。変換式は 1/(LOG(EXP(1),2)*0.0891) で、結果は 7.77943 であった。つまり 7.77943 日(約1週間)で倍になっていたことが分かった。

実際のデータで確かめてみよう。

2月22日に106人だったものが、7日後の29日には206人とほぼ2倍。
3月1日に221人だったものが、8日後の9日には446人とほぼ2倍。


 
まとめ
 
 
2月下旬から3月中旬までの3週間のデータによれば、
感染症の患者数は7-8日で2倍になる。
 
 
 
..[↑][↓] 6
 6 改めて専門家会議の見解を見てみようもどる
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専門家会議が3月9日に発表した見解では、国内の状況について「本日時点での日本の状況は、爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえている」となっていた。

しかし、患者数の推移を見る限り、1週間で倍になるペースで感染拡大が続いていることがわかった。

主張A. 爆発的な感染拡大ではない
主張B. 1週間で倍のペースで感染拡大

このA.B.2つの主張をどのように考えればよいのだろうか。可能性は2つある。
a. データが異なる
b. 解析手法が異なる

ここでの解析は患者数を使った。患者数の他には、感染者数、検査数、死亡者数、退院数などがある。これらのデータを使うと結果が異なることがあるかもしれない。

また、検査範囲が時とともに変化している。発熱などの症状があっても検査しない場合も多く、症状がなくても濃厚接触者とわかれば検査することが多い。こうした検査の方針も変化している。また、症状があっても病院に行かないよう指導されていることから、数字に反映されない場合も多い。さらに、感染してから発症するまでには1-2週間のタイムラグがあるとされる。

これら複雑で変化する要因を含めたデータを専門家会議は持っている考えられる。専門家会議の皆さんには、見解の根拠となるデータと解析手法を公開してもらいたい。

今回のデータ分析の結果を、感染症対策にどのように活かすかが今後の課題だろう。適宜的確な対策を望むばかりである。



ここから先は、考える力の養成訓練「批判的思考 クリティカルシンキング」の実践的議論の課題としてはどうだろうか。
..[↑][↓] 7
 7 予測もどる
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最後に、データ解析に間違いがなく、かつ状況に変化がない場合の試算をしておく。

 
予測
 
 
3月10日の患者数は492人なので
18日には1,000人を超えていると予測される。
 

この予測が外れ、下方修正されることを期待している。
..[↑][↓] 8
 8 謝辞もどる
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データをわかりやすく整理・公開し、さらに再利用ライセンスを明記していただいている東洋経済と、その担当者の皆様に感謝します。
..[↑] 9
関連情報: ⇒その2 に続く



2020.03.15 田淵龍二 TABUCHI, Ryuji
2020.03.16 棒グラフを改訂
2020.03.17 日表で出来事を追加