2019/03/11 言語教育エキスポ2019に参加して
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言語教育エキスポ2019は、大学英語教育学会(JACET)関東支部教育問題研究会が主催する実質的な年次大会で、毎年3月に早稲田で行われてきた。
今年のテーマは「AIや翻訳機が進化したら外国語教育はどうなる」であった。
言語教育エキスポの魅力は、現場の教育と教授法に熱心な先生方の問題意識を共有できることだ。
そこで今回は、田淵が視聴したすべての発表について所感を書いた。田淵の学習メモである。
日本の英語教育が抱える問題点と新しい方向性がおのずと浮き彫りになってくることを期待している。
会場は早稲田大学商学部の会議室である。一般教室からは区別された区画である。部屋は20人くらいから100人を越える規模まであるが、そのうち406から410までの5教室に定員300人の参加者が思い思いに分散する。
田淵の発表が409教室であることから、終日にわたり409教室のひとつの椅子に座り続けた。
定点とした409教室は40人ほどの規模で、席がコの字型に配置され、9個の題目で19人の発表者が登場した。
409会議室のひとこま
発表1つにつき30分枠が与えられ、朝の9時から夕方の5時まで13コマが並ぶ。そのうち1コマは3つでセットの紹介報告(90分枠)で、1つは協働学習のワークショップ(90分枠)になっていた。
- ナラティブフレームを使った 1 年を振り返る活動
- Planning Task-Based Classes: Developing an ‘Introduction to English Communication’
- Task design における outcome と context への焦点化
- オンライン英会話システムの効果と利用上の問題点
- 調音を伴ったコンピュータによる高変動音素訓練が日本人が苦手とする音素の知覚と調音に及ぼす効果
- 日英字幕付き音映像コーパスによる英語ライティング学習
- ICT を用いた外国語教育実践: 音読・リーディング・ライティング
- 異文化理解へと興味関心を導く,絵本の読み聞かせ指導法
- 協働学習による協働学習のためのワークショップ”自身の問題として捉える”
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もくじ |
- ナラティブフレームを使った 1 年を振り返る活動
- Planning Task-Based Classes
- Task design における outcome と context への焦点化
- オンライン英会話システムの効果と利用上の問題点
- 調音を伴ったコンピュータによる高変動音素訓練
- 日英字幕付き音映像コーパスによる英語ライティング学習
- ICT を用いた外国語教育実践: 音読・リーディング・ライティング
- 異文化理解へと興味関心を導く,絵本の読み聞かせ指導法
- 協働学習による協働学習のためのワークショップ
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- 番号
- 表題
- 発表
- 概要
- 方法
- 1年を4等分した円グラフに4半期ごとの活動と反省を書き込ませる
酒井先生の印象的な言葉で発表が始まった
- 最初「ナラティブフレーム」と言う用語がわからずネットで検索したが、ガンダムが出てくるばかりでひとつも発見できなかった。終わるころになって4等分した円グラフ様式の記入欄のことだとわかった。
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- さてその記入用紙が視聴者に配られて1年間を振り返って書き込むように指示されたが、イベントしか書けない自分に気づかされた。懇親会でこの話を隣の先生にしたところ「本来の振り返りは1回の授業の終わりにすることではなく、計画を立てそれが達成されたかを検証することだ」と言う趣旨の教示をしていただいた。わたしはそれまで「授業の終わりにする」論考や発表しか見てなかったので、目からうろこだった。清田先生の発表はまさに1年を振り返っていたので「正統」だったのだ。
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- ちなみに発表では、円の中心には振り返りのキーワード入れるよう指示があった。わたしは「イノシシ」と書いた。その心は「振り返らない=前しか見てこなかった」である。
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- 番号
- 表題
- Planning Task-Based Classes: Developing an ‘Introduction to English Communication’
- 発表
- Tatsuya NAKANO, Fusako KITTA, Taron PLAZA, Jon MORRIS
- 概要
- 方法
- 大学の授業で楽しく気軽に思いのままのプランでビデオ作りができるなど、一昔前では考えられないことだ。
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- すぐ気づいたことは、楽しそうな演者(学生諸君の笑顔)と発音がカタカナ英語なことだ。たとえば salad が「サラダ」となる。多少のことは気にしないで大局観に立ち、まずは慣れ親しむと言う先生方の考え方は大賛成だ。受験を離れ、下手でも楽しい経験が積み重なれば、英語を使うことに躊躇する気持ちが和らいでいくだろうと思いながら、紹介のビデオを拝見した。先生方の暖かさが感じられた発表だった。
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- たまたま隣り合った先生は児童英語に関わっておられたので「こうした活動は小学校だけでなく大学でもできるようになったのはいいですね」などと話(雑談)が盛り上がった。
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- この発表が始まる前に右隣の白人の先生に「ドイツの方ですか?」と声をかけると「先祖はケルトなのでゲルマンですが、英国人です」とのこと。そこで「日本で英語(English)と言うと米語(USA)が主ですが英国ではどうなんですか?」と長年の疑問を投げかけると「英国で英語(English)の授業科目は日本の国語ですが、英国だけでなく欧州や米国の英語も扱うんですよ」と教えてくれた。それがMORRIS先生だった。こうした交流が言語エキスポの魅力の一つになっている。
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右から二人目(背の高い方)がMORRIS先生
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- 番号
- 表題
- Task design における outcome と context への焦点化
- 発表
- 概要
- 方法
- テキストの内容(分野)ごとに適したタスクの型を選べるようにする
- 音声付きテキストの字幕付き同期再生に、ドリルの自動生成を手掛けてきた経験から、学ぶところが多かった。私は、穴埋め問題、語順整序、選択課題、かるたゲームなどを自動生成させる技術をベースにしてきた。臼田先生の研究は、それらの実践を整理する手がかりとなる。
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- プレゼン原稿を送っていただけるとのことで楽しみにしていたところ、昨日さっそく送っていただけた。この場を借りて感謝したい。
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- さっそく一部を紹介させていただく。下の表はタスクの種類を分類したもので、Pica, Kanagy and Falodum(1993) と 松村昌紀(2017) を元に臼田先生がまとめられたもの(のよう)である。臼田先生は小中連携の観点を持ちつつ教科書のタスク性を研究されている。田淵は「タスク性」と言う研究分野は未知であったが、臼田他の以下の論文が分かりやすかったので、あわせて紹介しておく。
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- 今回の発表は課題設定(=教師, coach)の視点であった。課題遂行(=生徒, player)にとってはどうなのか知りたいと思った。田淵は経験的に個人差が大きいと考えているので、複数の課題形式を提供して、気に入った課題から始めるように指示していた。動機の問題は個性(=個々人の特性や学力やそのときの気分)とは切り離せないからだ。ただこのあたりは、一斉授業やグループ学習や個別学習、学校教育の枠内か否かなどにも関わってくる。タスク性とは奥の深い分野だと知った。
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| タスクの種類 | |
1 | ジグソー | 物語復元、全体構築 |
2 | 情報ギャップ | 創意特定、描画複製、IDクイズ |
3 | 問題解決 | 論理パズル、内容予測 |
4 | 意思決定 | 選択・順位付け、カウンセリング |
5 | 意見交換 | 時事批評 |
6 | ナレーション | 物語再話 |
お勧めの参考文献
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- 番号
- 表題
- 発表
- 概要
- 方法
- 2業者を指定し、1か月間会員登録して体験学習させた
- 昨年(2018)も同じテーマで発表されている佐藤先生は、2016年と2017年には動機づけのテーマだった。その観点からするとオンライン英会話システムは生徒の動機づけとしては弱いという結果だったようだ。実際アンケートによれば興味は高かったが、週1~2回も使わなかったそうだ。
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- ちなみに、田淵は実践研究発表の成功事例では先生に「成功の秘訣は何ですか?」と尋ねることが多い。その時の答えは異口同音に「試験」「単位」であった。
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- 番号
- 表題
- 調音を伴ったコンピュータによる高変動音素訓練が日本人が苦手とする音素の知覚と調音に及ぼす効果
- 発表
- 概要
- 文や単語ではなく、音素(子音+母音)レベルでの発音訓練
- 方法
- 飯野先生は一昨年(2017)にオンライン英会話の実践報告を行い、その流れで昨年からウェブによる音素発声訓練を報告している。
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- 今回の発表ではCV(子音+母音、たとえばthe)訓練とCVC(子音+母音+子音、例えばcat)訓練の比較を行い、先にCVC訓練を1か月したあとにCV訓練を1か月したグループの方が、逆の順番(前CV、後CVC)のグループより音素レベルでの発声向上が高いとの結果であった。これは田淵が10年ほど前に平均年齢50歳の社会人を対象に行ったCVCによるフォニックス音声訓練の結果と合致している。この訓練結果をLETで発表した記録が ⇒こちら に公開されている。
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- 発表後に、このことを飯野先生に伝えて、話が盛り上がった。ちなみに、Try as a guest (お試し)があるのでやってみるとよい。私は母音の初級で正解率25%だった m( "ヘ")m ガックリ。
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- 番号
- 表題
- 日英字幕付き音映像コーパスによる英語ライティング学習
- 発表
- 概要
- AI翻訳機と対訳コーパスをつかった作文の効能と限界
- 方法
AI翻訳機+対訳コーパス操作説明動画上映中の会場
- 前半に機械翻訳がAI翻訳としてブレイクするまでの歴史を振り返り、その成果であるAI翻訳機(例えば Voikkar)をどう使うかを実践した。
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- 後半ではGoogle翻訳の汎用性と限界(欠落や誤訳)をカバーするためには、日英対訳コーパス(たとえば CORPORA)が適していることを例文キャッチコピー「たかが香りで男が変わる」で紹介した。
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- 今回の発表は、同時間帯の90分枠シンポジウム「AIと翻訳機が進化した時代の外国語教育を考える」の裏番組となった。田淵もそちらに参加したいほどだったので、視聴者がいないか心配していたが20人ほど来ていただけホッとした。
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- 田淵の発表では、視聴者に実際にスマホで体験していただくことになった。AI翻訳機には従来の英語教育を根本からひっくり返す力が秘められていることを実体験していただいた。
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- 番号
- 表題
- ICT を用いた外国語教育実践: 音読・リーディング・ライティング
- 司会
- 概要
- 発表
- 概要
- 方法
- djay pro 2(App store \6,000)購入が必要
- 発表
- 概要
- コンピュータで長文からキーセンテンスをマークさせた結果をリアルタイムで教師卓に彩色表示させる仕組み
- 方法
- iBELLEs(closed system で、アカウントが必要)
- 発表
- 概要
- 英作課題をウェブで編集させ、どのテキストを誰が書いた(編集した)かを彩色表示させる仕組み
- 方法
- Google アカウント必須、Google Store からアプリのインストール必須
- 21世紀初頭からCALL教室で行ってきたことの延長(ウェブ化)と見受けられた。
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- ワークショップ枠でありながら著作権やアカウント制限やWiFiがないことなどを理由に製品の紹介だけで終わった。これらの事は事前に点検可能なことである。ワークショップは、「明日からでもすぐに授業で使える」ことを念頭にして行うことが望ましいのではないだろうか。
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- 田淵が所属する外国語教育メディア学会(LET)関東支部のリサーチ・デザイン研究研修部会が主導した90分枠だっただけに残念である。
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- 番号
- 表題
- 異文化理解へと興味関心を導く,絵本の読み聞かせ指導法
- 発表
- 概要
- 英語の文化に注目しながら、絵本の特性を生かした教授法の紹介
- 方法
- Oxford Reading Tree シリーズの絵本を使って読み聞かせる
- 児童英語に限らず家庭でも行われてきた古典的な絵本の読み聞かせである。読み聞かせは言語習得の入り口だと思っている田淵も大好きなテーマである。
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- うれしいことに前橋の図書館の一角には日英米は勿論、ヨーロッパやインドやイスラムなど世界中の絵本を置くコーナーがあった。そこには畳敷きの広い空間もあるほどの力の入れようである。20年ほど前、田淵はその図書コーナーから世界の絵本を片っ端から借りてきたことがある。今流に言えば異文化との遭遇であった。
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- 今回の諸木先生の発表は英語(Oxford)であったが、多言語の絵本に拡げるともっともっと豊かで楽しい授業を児童生徒に提供できるだろうなと夢を広げることができた。
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- 諸木先生の抑揚ある語り口や、絵の雰囲気を巧みに使った間の開け方とページの捲りにひきつけられてしまった。読み聞かせは指導者の技量の見せどころである。この技量をすべての指導者に求めることができるとは限らないところが難しい。
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- 私は児童英語で小学生が高学年になると「文法をなぜ教えてくれないのか? 他の塾ではもう始めてるのに」とか、中学生になると「この単語は習ってない、試験に出ない」などとの意見が増えてきて挫折した経験があることを伝え、先生はそれをどのようにして乗り越えてこられたのかと質疑の時間に先生に尋ねた。すると一呼吸おいて「今すぐ試験には出ないけど、将来社会に出ればこの授業が役に立つと教えている。そうした理解がある親子が集まっている」と教えてくれた。大変なパワーの先生だと羨ましい思いがした。
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- 番号
- 表題
- 協働学習による協働学習のためのワークショップ “自身の問題として捉える"
- 発表
- 津田 ひろみ,舘岡 洋子,大須賀 直子,小松 千明,松本 功
- 概要
- 教科書のテキスト(随筆)内容を「自分事」として討議する
- 方法
- 協働学習の視座として「生徒自身+他者+テキスト」の3者にさらに「自己」を加えていると図示された。これは大変面白く、示唆に富む提案だと思った。即物的な人と物の関係に、観念的な自己(認知)を特設していたからだ。今回の重心が「自身の問題として捉える」にあるからだろうと勝手に納得した。
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- ワークショップでは「男女で違う育て方」「風呂敷」のどちらかのテーマでグループ討議することが課題であった。私のグループは3人であったが、どちらのテーマにするかで討議時間の大半を消費してしまった。むしろその過程で議論が共有され深まったとも言えた。幸いにしてあらかじめ代表を決めていたので、その先生が上手にまとめて発表は事なきを得た。
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- 余談になるが、このワークショップへの参加者のうち男子は4人で、全体の3分の一以下。さらにその4人とも背広ネクタイではなかった。近年背広ネクタイで発表する男性が増えたように見受けられるが、そのスタイルは何かのイデオロギーを象徴しているのかと思わせるような講習会であった。
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..[↑] 10 |
2019.03.13 田淵龍二 TABUCHI, Ryuji
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