旅のまにまに
その六・誰や、教えたん?
みなさん、行った先々で変な日本語に遭遇したことはありませんか?
例えば、インド人の「トモダチ・プライスネ」に「ノー・タカイ、ノー・ヤスイネ」
などがあるが、どう見たって彼らの十八番『ノー・プロブレム』のごとく問題だらけにし
か見えない。それにいつテメェとなんか友人になったんじゃ? 高いのか安いのかどっちな
んや? と怒りたくなることが多々ある。
なので無視すると、今度は、
「オマエ、バカね、ケチね、ケ〜チッ」
と言って挑発してくる始末。思わずしばきあげたくなるほどだ。
さらに中華圏では、よく『日本語Tシャツ』なるモノにも遭遇するが、これも変だ。
例えば『機動戦士C』(『C』って何?)とか『なとりのリトトロ』(???)など、
本当の意味を知っていれば絶対に着れないぞ、というモノが人民の数ほどにあふれて
いるのだ。
特に私が見てとても感動したのは『お笑い』と書かれたTシャツを着ているめっちゃい
かつくてもっさいオヤジ。この人は普段はこんな表情だが実は中国を代表するお笑い芸人な
のかも? と感じてしまったくらいだ(笑)。
しかし、これらの多くは日本の雑誌やビデオ、または旅行者のぱっと出る言葉から誤解さ
れ、使われているのだと思うが、中には旅行者がわかっていながら冗談で教え込んだとしか
思えないのもある。
これはインド・ブッダガヤでの話、道端を歩いていると、オヤジがやって来て、
「同情するならっ、金をくれ〜っ」
と、叫んで手を差し出してきたではないか。
これには驚いた。折しも当時は超ヒットしたドラマ『家○き子』が話題になっていた頃で、
まさかインドの田舎でこんな言葉を聞くとは思ってもいなかった。まだここまでビデオが回
ってきているとは思えない。絶対に旅行者が、こうしたら日本人からお金がもらえるよ、と
言って教えこんだのだろう。ホンマに困ったモノだ。
しかし、そう思っていても、そんなことなど露ほども知らないオヤジは必死だ。
しきりに「同情するならっ……」を繰り返し、ついてくる。こっちも腹が立ってきたので、
「オーケー、じゃあオレに同情するなら、消えてくれ!」(もちろん日本語)
と怒鳴るとすかさず、
「イエッス、サー」
と言いながらもついてくる、おい、ホンマにわかってんのか?
だがこんなことを繰り返しながら1`近くも歩くとさすがに諦めたのか、ちょうど日本人
の女の子が横を通り過ぎると、ササッと鞍替えし、やっと私のもとから去ってくれた。
が、やっぱりオヤジ「同情するならっ……」を彼女にも連発していたな。
こんなの教えたん、誰や?
あと、びっくらこいたのがある。
それは韓国、仁川国際フェリーターミナルでの出来事、天津行きフェリーの事務所で運航
予定や料金などを受付の女の子に聞いていたら、横にいたオヤジが、
「ニッポンジン?」
と、話しかけてきた。
ちっ、せっかく日韓親善に努力しているのに横ヤリ入れんなよ、と思いつつも、イエス、
と答えると、シャンと気を付けの姿勢で右手をピンと立て大声で、
「あいさつっ!」
と叫んだのである!
いきなりの、しかも予想外のオヤジ攻撃に面食らってしまい、思わず右手を挙げ、
「あいさつ……」(小声)
と応えてしまった。
それを見たオヤジ、満面にこれでもか、というくらいの笑みを浮かべ、ルンルン気分で去
っていったのである。
か、完敗だ。
こんなんで負け? と思われる方もいるかとは思うが、あの時だけは本当に『負けた』と
感じるくらいの見事な攻撃であった。まぁ、どういう判断で勝ちなのか負けなのか、ハッキ
リと私もわからないのだけれど(笑)。
しかし「あいさつ」という挨拶の仕方なんてない。多分、このオヤジが日本人の誰かに、
挨拶ってなにか? と聞いたところ、間違って直訳して教えてしまったのだろう。
いや、あの姿勢はどう見てもナチスだ、絶対にふざけて教えたに違いない、困ったモノだ。
多分、これからもあのオヤジは日本人を見つける度に右手を挙げて「あいさつっ」と、挨
拶するのだろう、そしていつもオヤジの圧倒的なパワーの前に、誰にも指摘されることなく
勝利し続けることだろう。
オヤジ、不幸よな(合掌)。
他にもいろんな旅行者から変な日本語の話を聞くが、数年前インド・ニューデリーで出会
った旅行者から聞いた話に愕然とした。
バラナシ・ガンガの岸辺で彼がボーッとしてたら、一人のインド人ポテチ売りの子供がや
って来て、
「ポテチ旨いよ、★☆★☆★☆★ね」(★☆部分は、モロ下ネタすぎて自粛)
と、いきなり言ってきたんだよ、という。
なに? それって、前の年バラナシにいた時に、ポテチ売りに教えたような記憶が……。
まぁこんな言葉、オレじゃなくても言うだろうし教えるだろうが、それが本当なら、どえら
いことしてしまった。わしもエラそうに人のこと言えないゾ、これは(汗)。
申し訳ない、インドの皆さん。