旅のまにまに
その弐・日本一揺れるフェリー
これがあの『宙とぶ檻』。島より今まさに船に近づこうとしている
ときに撮影。
きさは2m四方、人も荷物もこれに載せられ上陸するのである。
出発日、あろうことか飛行機を寝過ごしてしまった私は、なんとか出来ないかと航空会社へ直談判。
すると運良く伊丹発の全日空便に空席があったので振り替えてもらい、乗船〆切を30分ほど遅れなが
らも船会社の事務所に到着、この時ばかりは高いけれども融通の利く正規運賃のありがたさが身にし
みて感じましたね。
やっとの事で船の切符を手に入れた私は受付嬢に、船はどこ? と尋ねると、満面に笑みを浮かべて
外へ連れだし、指さす先にあるのはなんと、ちっこい貨客船!
ボー然、とする私を見てお嬢さんはニコニコとしながら事務所へと戻っていくのでありました。
定刻17時、『だいとう』は那覇を出航。
客室内はほぼ満員状態で、廊下やデッキには足の踏み場もないほどの手荷物であふれ、よく見ると門
松やしめ縄、そして花がある、さすがに八丈島からの入植者が多いゆえに本土の風習が根強く残ってい
るようだ。それに貨物室には大量のコンテナのほかに車も数台積み込まれている、週に一便とはいえこ
の小さな船は島にとってなくてはならないものなのだ。
私は切符に書かれた番号へ向かうとなんとザコ寝ではなく寝台(ベット)であった、これは予想してなか
っただけに本当に嬉しい、また談話室もあって、出港直後から数人が集まって宴会が始まっていた。私
も那覇でホカ弁を買い込んでいたのでその中に入らせてもらった、私以外は皆大東島の出身で、正月休
みで帰省するとのこと、その嬉しさからか宴は酒や歌が飛び交いものすごく盛り上がったのである。
しかし、最初は静かな航海が一転、大きく揺れ始め、胃の中がシェイク化しみるみる顔が青ざめていく
自分がわかるんだけれども、私以外はこれくらいの揺れなんか慣れっこらしく、ぐびぐびと酒をあおり、ど
んどん私にも勧めてくる、それに揺れと共に机の上を左右にふらふらと移動するカップラーメンをパシッ!
と取るや平然と食べるのにはホント脱帽っす。さらに気分が悪くなるも宴会はヒートアップし、ビールでは
なく泡盛が登場したのでこれでは死んでしまうと感じ、気分が悪いので寝させて、と断ると、
「こんなのは序の口、夜中に黒潮を越えるからもっと揺れるよ〜ぅ。」
と、大爆笑。今まで多くの船に乗ってきて、グエグエいってる人をあざ笑っていた自分が船酔いとは……
バチが当たった。
歩くことすら難しいほどの揺れの中でようやく寝台に潜り込み、ようやく気分が落ち着きかけた0時頃、
予告通りに悪夢はやって来たのである。
太平洋の中を進むたった699tの貨客船は黒潮を横断し始めたので波にもまれる木の葉同然の状態、
寝ていても耐えられないほどの揺れに、もうあかん! とトイレへ走るも、
『使用中』
えっ、なんで?
こんな夜中にしかもこんなに揺れとんのに!
もう間に合わんのでデッキに飛び出すや、太平洋に向かって大量の撒き餌を……。
(船内には、『海への廃棄物投棄厳禁』と書いてあったんですがねぇ、食事中の方ごめんなさい。)
吐いてもスッキリせぬままどうにか寝台に辿り着いた私は、頭がクラクラのまま朝まで眠ることが出来
ずにウンウンうなされてました。
だが、島が沖合に見えだした頃、船員さんや乗客達が起きだし、コーヒーを飲み交わしながら、
「今日はあんまり揺れなくてよく寝れたねぇ。」
と語り合っているのには、あぁ……。(涙)
日の出と共に船はやっと島に到着。
しかし船は接岸することが出来ないためにクレーンに宙吊りになって上陸するのは前号に書いた通りで
すが、目の前にクレーン車とその先に付いた檻が見えたときには船酔いも忘れひとりはしゃいでしまい
ましたわ。
宙に浮かんだ檻は2Fデッキにドンと着くと、
「ここで降りる人は、さぁ乗って。」
と船員に言われるがままスグに乗り込むや、あっという間に持ち上げられたかと思うと急降下! で無事
に着地、これはヘタな遊園地よりもはるかに面白く、もう一度乗せてくれと頼むも、怒られてしまいました。
たはは。(当たり前か……)
ここで降りた乗客は私を含めてもたったの5人で、残りはみんな南大東島へ向かうようだ、やはりこちら
の方が規模が小さいだけにこうなってしまうのだろう。
だが、風の影響でいつもの西港ではなく村中心部から離れた江崎港に上陸してしまったために宿まで
遠く、どうしようかと考えるために座っていたら、港で釣りをしていたおじさんが乗せてってくれるという。
けど原付だよこれ。というと、おじさん、
「大丈夫、今の時間はポリスは寝てるからよぅ。」
と高笑い。(おいおい……)
とまぁ、北大東初日はこうして幕を開けたのでありんす。
以下、次回。
後日、とあるHPにこの船が『日本一揺れるフェリー』と説明があるのを発見、思いっきり頷いたのは言
うまでもありません。(笑)
クレーンによる積降し風景(北大東島・江崎港より)
この船が「だいとう号」(699t)である。
普通、瀬戸内海航路は10,000t、沖縄・中国航路は12,000t
クラスであるのを考えると、いかに小さいかが容易に推測できる
であろう。