旅のまにまに
その拾七・いい湯だなぁ?
ご存じの方もおられるかとは思いますが、ワシは自身のホームページにて『銭湯
解析』というコーナーを主宰し、勝手に各地の銭湯を紹介しているほどの風呂好き
である。
もちろん、日本のみならず外国にいい風呂があると聞くと必ず試してみるのでは
あるが、文化の違いからいろいろと戸惑ってしまうことが多い。
けれども、韓国はお隣ということもあって文化感覚も近く、大きな街を歩けば必
ず銭湯があちこちに湯煙を立ち上らせているのを見かける。
特にソウルは中央駅の地下にも営業しているほど生活と密接しており、どの銭湯
もサウナはもちろん、アカスリや散髪屋までもが浴室内に常設されていて、どれも
廉価にて楽しめ、靴も風呂からあがるまでに磨いてくれているので、体の隅々まで
磨き上げられリフレッシュ……とまぁ日本のサウナもビックリのサービスぶり。
ただ、大抵の店の営業時間が日の出頃から夕方過ぎまでなので夜遅くにちょっと
風呂へ、とはいかないが、韓国のサラリーマンは朝早くに起きて全身をピカピカさ
わやかしてからに出勤していく姿は、この国の勢いの原動力を垣間見させてくれる。
あぁ、何とも素晴らしきかな韓国銭湯。
なのでご多分に漏れずワシは一時期、銭湯目当てに韓国へ行きまくっていたのだ
が、やはり文化の違いから生ずる『落とし穴』に見事はまってしまったのである。
それはとある冬のソウル、体の芯まで凍り付くような寒気に襲われ、一目散に仁
寺洞近くの銭湯へと駆け込んだ。
そこは外の寒さとはうって変わって極楽のごとく暖かく、ワシは広い浴槽に飛び
込むように入り、夢心地気分にのほほ〜んと湯を愉しんでいた。
ふと横を見れば、洗い場でムキムキ親父がタイル床に寝ころびながら独りアカス
リを実践中も、自分の手にアカスリミトンをはめて無理した格好で背中やら股ぐら
なんかをごしごし擦っている姿はどう見ても『一人悶え苦しむ変態親父』にしか見
えない。
だが、かなり滑稽で微笑ましい光景に感動、ええもん見させてくれてありがとう、
と思っている間に体もちょうどふやけてきた。
ここで汗を一気に出してスッキリじゃ、とスチーム(蒸し)サウナへと向かいド
アを開ければ、むわッ! と激しい蒸気が襲ってきて体を包み込まれとっても熱い
が、これがまた気持ちいいのなんのって。
しかし、室内は暗く蒸気の濃さもあって視界はほとんどゼロだけれども、我が陣
地を確保するため内へと進むと、急に目の前に巨大な白い布袋が現れる。
だが、突然だったので避けることが出来ずにふやけきった顔がバフッ! と布袋
に埋もれていく。
なんでこんなとこに袋なんかぶら下げとるんや、危ないだろ、と怒った瞬間、
うぎゃ……!
なんと、その怒りを一瞬に吹き飛ばすくらいの激痛が目と鼻に襲ってきたのだ。
叫びたくても叫ぶことが出来ず、ただただ室内でのた打ち回るワシ。
一体、何が起こったんだぁ、このビリビリ感は? と、みなさんも不思議に思わ
れることでしょうが、実はこの袋にぎっしりと入っていたのは『青唐辛子』、そ
れが蒸されることによりたっぷりと唐辛子エキスを袋に含ませてくれたおかげで知
らずにふやけた我が顔がそれに触れ、このような悲劇となってしまったのである。
汗と混じった唐辛子エキスはよ〜く目や鼻に染み込んでくれたおかげでなかなか
落とすことが出来ず、しばらくビリビリひりひり感が続くという厄介さ、絶対に催
涙ガスよりも性質が悪い代物だ。
普通、日本でサウナといえばコーヒー豆のガラなどでにおいを付けているものな
のだが……韓国ではやっぱり青唐辛子、さすがである、と感服するが、なんでそん
な危険なモノを入り口近くにぶら下げとんねん、めちゃトラップやないかい、と今
でも怒りたくなる。
皆さんも韓国サウナの室内にぶら下げられている布袋には要注意ですよ(笑)。
だが、悲劇はそれだけでは終わらない。
ちょっと南下してタイでは高級ホテルを除く大半は水シャワーが一般的であるが、
現地の人は一日に何度もシャワーを浴びてすっきりと涼を愉しんでいる。
風呂が無いのはちょっと寂しいが、これも常に蒸し暑い土地柄ゆえの知恵なので、
ワシもその気持ちいい習慣に素直に従っている。
しかし風呂に対する想いは拭うことは難しく、バンコク・マッカサン駅の近くで
『ゆ』と日本の銭湯の暖簾を掲げている店を発見し、喜び勇んで入ってみれば、
なんとその店はマッサージパーラー(日本でいうところのソープランド)だったの
でビックリして店を飛び出してしまった。
そりゃ、バンコクに『ゆ』なんて暖簾があること自体変だと先に気づかなかった
んだろう、と情けないことこの上ないが、これだけでタイでの悲劇は終わらない。
かれこれ10年前に初めてバンコクに降り立った時から、ワシは宿のシャワー室に
あるミニシャワーを重宝していた。
バンコクの一般的な宿のシャワー室はトイレと一体化しており、シャワーを使う
とトイレットペーパーが濡れて使い物にならなくなる不便さはあるものの、それは
事前にビニール袋で防御することによって解決できるので心配なく、逆に常に水掃
除できるので涼しく清潔なので好きあるが、大抵のシャワーは上部に固定されてい
るので、体を洗い石鹸を流そうとしても脇の下や股座の泡をなかなか落とすことが
出来ずに困ってしまう。
しかし、ココで登場するのがさっきご紹介したミニシャワー、これは蛇口からホ
ースが下に伸びて先には手のひらサイズのシャワーがつながっており、そこに付い
たボタンを押すことによって勢いよく水が飛び出るという仕組みで、そしてホース
付きなのでどの角度へも水を飛ばせ、イヤな残り泡もすっきり落としてくれるとい
う優れモノなのである。
なんと言う贅沢、バンコクは一歩進んでいるよなぁ、なんて感心しながら、タイ
滞在中のシャワーは必ずこのミニシャワーを愛用していたのだ。
しかし、最近になって本屋でとある雑誌を立ち読みして顔面蒼白に。
なんとこのミニシャワー、実はシャワーではなく、トイレの際のお尻洗いやビデ
として使われているという……しばし唖然呆然。
ワシ、今の今までシャワーと思っていたのに、お尻洗いだったのね。
真実を知るという事ほど悲劇なことはない、と誰が言ったか知らないが、いろい
ろと悲劇を繰り返すことによって、その体験は自身のモノになるのであるから別に
後悔はしてはいない(けど、涙が止まらないのはなぜ?)。
最後にワシの旅先での小知恵をご紹介。
宿でシャワーを浴びる時、服や下着を引っ掛けたいが、それが錆びた釘だったり
それすら無くて困ることがありますよね、その時に大活躍するのが、
『S字ハンガー』。
針金で出来てはいるがビニールでコーティングされているので服が汚れることも
無く、大きさも手ごろで軽いのでバックの負担にもならない、そしてなんといって
も百円ショップで買えるのがなんともいい。
このS字ハンガー、シャワーの以外でもいろんな場面で大活躍しますので、旅の
お供に是非いかがでしょう?